論より証拠 -その7 休みとの向き合い方
2016.09.26 月 オリジナル連載ハーバード公衆衛生大学院博士課程に在籍する傍ら、米国大手広告代理店マッキャンワールドグループ・ヘルスケア部門にて、戦略プランナーとして活躍する日本人女性がいる。名前は”林英恵”。
本連載では健康に対する考え方、エビデンスに基づくアプローチ方法を彼女自身のユニークな経験談も含め解説していく。
【バックナンバー】
・論より証拠 -序章
・論より証拠 -その1 エビデンスとは
・論より証拠 -その2 文系の私が科学の世界に入って驚いたこと
・論より証拠 -特別篇- 運動・スポーツ環境における日本とアメリカの違い
・論より証拠 -特別篇- スポーツ産業に携わる経営者や指導者にとっての”エビデンス”の重要性
・論より証拠 -特別篇- 運動やスポーツ産業の経営者・指導者に求められる仕組み・ビジョン
・論より証拠 -その3 エビデンスからムーブメントを起こす(前編)
・論より証拠 -その3 エビデンスからムーブメントを起こす(後編)
・論より証拠 -その4 あなたの行動は予測できている
・論より証拠 -その5 ニューヨークとパブリックヘルス(前編)
・論より証拠 -その5 ニューヨークとパブリックヘルス(後編)
・論より証拠 -その6 アメリカで医者にかかるということ
ニューヨークは暑さの中にも、少しずつ秋の気配が感じられるようになりました。マンハッタンを通る夜風が気持ち良い毎日です。
みなさん、夏休みはもう取りましたか?もう取った方、まだ取っていない方、いらっしゃると思います。
私はマンハッタンで働き始めてから、日米の働き方の違いを日々感じています。特にそれを感じるのは、 “オン” “オフ”のつけ方と休みの取り方。もちろん、チームや上司にもよるのですが、日本とは、毎日の時間の管理と、休みの取り方が、かなり異なると感じています。
例えば、日々の仕事でいうと、オフィスは19時を過ぎるとほとんど誰も残っていません。始業時間は、朝9時から10時くらいの間に大体みんな出社していますので、早く帰るために特別朝早く来ている、というわけではありません。夕方17時を過ぎるとエレベーターは、帰宅する人で混み始めます。なぜ日本とアメリカでこんなに違うのか話し出すと、連載が一回分終わってしまうので、今日はこのオンとオフの分け方、つまり、休みについて焦点を当てます。
日本にいるときは、17時に職場を出られることなどなかったので、この違いには本当にびっくりしました。金曜日などは、16時くらいから帰宅する人が出てきます。慣れるまで、「早く帰る」ことに対する罪悪感がどうしても抜けず、アメリカに来て10年になりますが、「やっぱり私は日本人なんだなあ。。。」とつくづく感じました。
事前に休みの予定を入れた上で仕事のスケジュールを立てる
アメリカは、オンとオフがはっきりしていて、それぞれの「オフ」、つまり休みの時間を非常に尊重する文化があります。休みは休みで、よっぽどのこと長い限り、メールや電話は返しません。また、休みを取ると決めたら、それに合わせて仕事のスケジュールを調整するので、仕事に追われて結局休みが取れなかった、というようなケースはまだ見たことがありません。自分の休みを大事にする代わりに、相手の休みも尊重する。その間は連絡を控える、というのが、暗黙の了解になっています。
アメリカは「休み」を非常に尊重する文化である
休みを気にするようになったのも、ハーバード時代の試験勉強中に、先生から言われたことが「まず、休みの予定を入れよ」ということがきっかけでした。受験勉強などは休みなくするものだ、と考えていた私にとっては、試験前に休みを入れる自分にオッケーをだすことが難しく、休みのたびに不安になったり罪悪感を感じることの繰り返しでした。
ところが、次第に、休みを取り、自分が取り組んでいることから離れてみると、戻った時にフレッシュな気持ちになったり、取り組みから少し距離をおいたことで見える新しい視点などがあり、休みの効果を感じられるようになりました。今では、連休や季節の休みには、必ず休みを取るようになりました。また、普段も、週2日、少なくとも週1日は、 仕事や研究から一切離れて好きなことを気ままにする時間を取ります。「自分の心と体を飛行機の機体だと思いなさい」と当時の先生に言われました。つまり、飛行機は飛行後に必ずメンテナンスを行います。安全に着実に飛行するには、メンテナンス=休みが必要、という意味です。
効果的な休み方とは?
その一方で、「休みであればどのような休みでもよい」というわけではありません。
特に、 まとまって休みがとれるところでは、休暇明けに仕事やメンタル面での効果があるような休みの取り方が重要です。
ある研究では、休みを取っただけでは、ストレスの解消にならず、幸せになりにくいという結果が出ています。この研究を受けて、ハーバードビジネスレビューが、良い休みの取り方ということで以下4つのポイントを挙げています。
1.Focus on the details. In our study, 74% find the most stressful aspect of travel to be figuring out the details: travel uncertainty, transportation, wasting time figure things out on the trip, and being unfamiliar with the location. Instead of suffering, ask for help. Find a good travel agent to plan some of this for you.
2.Plan more than one month in advance. Ninety percent of our respondents had planned the details more than one month before going on a good trip. For the negative trips, 28% were still figuring out details at the last minute or even on the trip itself. The earlier you plan, the better.
3.Go far away. An average vacation creates no positive effect on happiness or stress. But 84% of the best trips over the past five years were to locations outside of country. This reconfirms the Twitter study findings that the happiness level of users increased the further the post was geotagged from the user’s home. And 94% found traveling during the vacation to be more meaningful than a “staycation.”
4.Meet with someone knowledgeable at the location. The biggest stressors on the trip were managing travel details, not feeling safe, and lack of knowledge of the location. On the best trips, 77% knew and met with a local host or had a knowledgeable friend, which was 35% more than on the worst trips. If you don’t know someone personally, companies like Monograms specialize in providing travelers with a local host to ensure that they have social support and local knowledge on the trip to lower stress.
参考:ハーバードビジネスレビュー https://hbr.org/2014/02/when-a-vacation-reduces-stress-and-when-it-doesnt
簡単に要約すると、リフレッシュになる休みとは、イライラさせるような要素が少ないこと(不確定要素が多かったり、時間の無駄になるようなことがあると、かえってストレスがたまります)。つまり、ある程度きちんと計画した旅行をすること、1ヶ月以上前から計画をすること、できるだけ海外など遠くに行くこと、その場所について詳しい人のサポートを受けることが大事だと述べています。
みなさんのお休みはいかがでしたでしょうか?
これから休みを取る方は、ぜひ参考にしてみてください。
>>Write by Hana Hayashi
林 英恵
パブリックヘルス研究者/広告代理店戦略プランナー
1979年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部を経て、ボストン大学教育大学院及びハーバード公衆衛生大学院修士課程修了。現在同大学院博士課程在籍。専門は行動科学及び社会疫学。広告代理店マッキャンワールドグループニューヨーク本社でマッキャングローバルヘルス アソシエイトディレクターとして勤務。 国内外の企業、自治体、国際機関などの健康づくりに関する研究や企画の実行・評価を行なっている。夢は、ホリスティックな健康のアプローチで、一人でも多くの人が与えられた命を全うできるような社会(パブリックヘルスの理想郷)を世界各地につくること。料理(自然食)とヨガ、両祖父母との昼寝が大好き。著書に『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)。また、『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。