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論より証拠 -その5 ニューヨークとパブリックヘルス(前編)

2016.02.02 火 オリジナル連載 ヘルスケア/ウェルネス

ハーバード公衆衛生大学院博士課程に在籍する傍ら、米国大手広告代理店マッキャンワールドグループ・ヘルスケア部門にて、戦略プランナーとして活躍する日本人女性がいる。名前は”林英恵”。
本連載では健康に対する考え方、エビデンスに基づくアプローチ方法を彼女自身のユニークな経験談も含め解説していく。
【バックナンバー】
論より証拠 -序章
論より証拠 -その1 エビデンスとは
論より証拠 -その2 文系の私が科学の世界に入って驚いたこと
論より証拠 -特別篇- 運動・スポーツ環境における日本とアメリカの違い
論より証拠 -特別篇- スポーツ産業に携わる経営者や指導者にとっての”エビデンス”の重要性
論より証拠 -特別篇- 運動やスポーツ産業の経営者・指導者に求められる仕組み・ビジョン
論より証拠  -その3 エビデンスからムーブメントを起こす(前編)
論より証拠  -その3 エビデンスからムーブメントを起こす(後編)
論より証拠  -その4 あなたの行動は予測できている

昨年秋、私はハーバード大学のあるボストンからニューヨークに拠点を移しました。というのも、勤務先である広告会社のニューヨークの本社に転籍が決まり、正式にビザがおりたためです。

現在は、マンハッタンにあるオフィスでフルタイムで働きながら、博士課程修了を目指して論文執筆を行う毎日です。仕事では、担当部署で国際機関や政府機関などのパブリックヘルス分野のコミュニケーション(疾患の啓発や予防など)を担当しており、何とも刺激的な毎日です。

ボストンとニューヨークは、車で4時間ほどの距離ですが、同じ東海岸でも文化が異なります。アカデミックで落ち着いたボストンに比べ、ニューヨークは、やはりビジネスの街。英語も歩くスピードも異なり、昨年は新しい「文化」と職場、生活に慣れるのにやっとやっとという感じであっと言う間にお正月を迎えました。

世界に影響を与え続ける街ニューヨーク

同じ国際都市として、東京とよく比較されるニューヨーク。

よく「ニューヨークが世界の中心である」かのようなことをいう人に対して、そんなこと言ったって、東京だってロンドンだってパリだって国際都市よ!と思っていたのですが、今は、なんとなく、その理由がわかる気がします。

「ファッションのパリ」など、どの国際都市も大抵一つや二つはその都市を象徴するものを持っていると思います。しかし、ニューヨークは、“XXXのニューヨーク”の「XXX」に入る部分が本当にたくさんあります。ここには、色々な分野を動かす人、組織、お金、情報、、、とにかく、色々なものが これでもかというくらい凝縮されています。広告の分野のハブもニューヨークですが(アメリカ有名なドラマ、マッドマンはニューヨークの広告会社を舞台に描かれています)、芸術、国際政治、ビジネス、スポーツと、ありとあらゆるものがここから生まれ、世界中に影響を与えていきます。

3bc8cc7a30b57c669997f0fe6cb1d54874a01f7f_p常にトレンドの中心地であるニューヨーク

そして、パブリックヘルス(公衆衛生)も、その分野の一つです。元々、パブリックヘルスのアメリカの中心はどこかと考えると、大体政府の保健機関のあるワシントンDCか、アトランタを上げる人が多いのですが、ニューヨークは、自治体として、パブリックヘルスに対して革新的なアプローチを行っています。

2000年代に、ブルームバーグ市長のもと、数々の新しいパブリックヘルスの政策が次々に導入されました。アメリカでは、市長のもとに、各分野の専門家がチームとして「コミッショナー」という立場で政策立案や実行を行います。特にこのポジションに医師でもあるトム・フェアリー氏が就任した2009年以降、任期満了になる2013年までは、当時悪名高きニューヨークの不健康な環境を変えるために動きました。

なかでも、肥満の大きな原因とされる甘味飲料の販売サイズ規制の提案や、数々のたばこ対策の推進は、記憶に新しいところ。彼らのパブリックヘルスへの取り組みの過程をノンフィクションとしてまとめた本『Saving Gotham』も出版されています。

先日、著者でもあり、ヘルスコミッショナーを務めたフェアリー氏と会う機会がありました。彼は、公衆衛生分野のマーケティングとコミュニケーションの力の影響を強く信じており、ヘルスコミッショナーを退任された後も健康的な「文化」を作っていくことに対してとても意欲的な方でした。

ニューヨークは、アメリカの中でも”The City”—どこかの一つの都市ではなく、ニューヨークという(特別な)市という表現をすることがあります。ここに集まる、様々な分野の人たちが、The Cityにふさわしい、先進的な取り組みをしていこうという誇りと意気込みが感じられます。健康、パブリックヘルスの分野も、まぎれもないThe Cityが誇る分野なのです。

後編ではニューヨークにおけるパブリックヘルス分野に関する具体的な取り組みをお伝えします。

>>>Write by Hana Hayashi

林 英恵

パブリックヘルス研究者/広告代理店戦略プランナー

1979年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部を経て、ボストン大学教育大学院及びハーバード公衆衛生大学院修士課程修了。現在同大学院博士課程在籍。専門は行動科学及び社会疫学。広告代理店マッキャンワールドグループニューヨーク本社でマッキャングローバルヘルス アソシエイトディレクターとして勤務。 国内外の企業、自治体、国際機関などの健康づくりに関する研究や企画の実行・評価を行なっている。夢は、ホリスティックな健康のアプローチで、一人でも多くの人が与えられた命を全うできるような社会(パブリックヘルスの理想郷)を世界各地につくること。料理(自然食)とヨガ、両祖父母との昼寝が大好き。著書に『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)。また、『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。