ITテクノロジーを導入することは、もはや、それほど難しくはない。だが、とかく忘れがちなのが、「サービスを受ける側」の目線に立った開発だ。いくら最新技術を導入しても、開発者サイドの都合を優先しては、サービスの受給者は置き去りにされ、期待した効果は得られない。
それをうまくクリアしているのがスポーツクラブ ルネサンスのITサービスである。
お話を訊いた方
株式会社ルネサンス 営業企画部次長兼フィットネスチーム課長 落合浩二氏
株式会社ルネサンス 営業企画部テニスチーム課長 舘内祐二郎氏
スポーツクラブ ルネサンスが提供している会員向け健康アドバイスアプリ「カラダかわるNavi(通称カラナビ)for スポーツクラブ」は、業界でも注目を集めているサービスだ。
同社はこれまでも、9,000名を超える管理栄養士・栄養士ネットワークをもつ株式会社リンクアンドコミュニケーションと共同で、企業健保を対象に、健康経営やデータヘルスを支援するアプリ「カラダかわるNavi」を提供してきたが、2018年1月より、クラブの個人会員向けにも同アプリのサービスを開始。
会員は毎日の食事や体重、血圧、歩数、スポーツクラブでの運動量などのデータを一元管理することができる。現在、ダウンロード数は約50,000。うち、アクティブユーザーが1/3を占めている。「アプリをつくったはいいが、実際に使ってもらえない」という悩みを抱える企業もあるなかで、なぜ、それほど活用率が高いのか。
「運動履歴だけでなく食事の内容もログとして記録するので、必然的に毎日アクセスすることになります。また、定期的にプッシュ通知でお知らせをお送りしたり、クラブ内でアプリのプロモーション動画を流したりすることも活用促進に一役買っています」。そう話す落合氏。さらに同社では、’16年から全社で導入しているサービスとして、「フィットネスタブレット」がある。
お客さまの利用状況や来館履歴、パーソナルトレーニングの受講履歴、施設利用の目的など、様々な会員情報がデータとして一元管理されており、各トレーナーはタブレットで情報にいつでもアクセスできる。お客さまとの接点を増やすとともに、これまではトレーナーの技量に頼りがちだった指導や接客のレベルをデータ活用によってトータルで引き上げていこうというものだ。
ここに「カラナビ」のデータも蓄積され、ますます運動の啓発に力を注ぐ。「’14年に一次パイロット、翌年に二次パイロットを行い、’16年に全店で導入。パイロット試験のときにお客さまの5ヶ月継続率を調べたところ、有意な改善が見られました。その後、全社導入時には6ヶ月継続率が改善し、退会率も減少しました」と落合氏。
「当社のコンセプトとして、『人×IT=感動サービス』という考え方があります。
すなわち、ただITを導入するだけでは意味がなく、そこに『人』が介在することで、初めてお客さまへ感動サービスを提供できるのです」フィットネスクラブは「人」が「人」に対してサービスを提供する場所であり、ITはサービスの提供者を補い、助け、「人」と「人」の接点を増やす導線に過ぎない。
提供者目線での開発に陥りがちなIT活用において、同社はあくまでもお客さま視点を貫き、本質的に求められるサービスを見抜いている。
同社が’17年から提供している「スマートテニスレッスン」もITを活用した取り組みだ。
もともとソニーが’14年、一般ユーザー向けに販売開始した「スマートテニスセンサー」を活用。ラケットにセンサーを付け、ネットポスト上にカメラ、コート上にサーバを設置。プレイヤーはコート脇にある視聴用モニターで自分のプレイを振り返ることができるという内容だ。
導入前には特別レッスンとして提供していたが、毎回集客率はほぼ100%。
評判の高さから通常レッスンでも導入を決めた。「サービス開始により、お客さま単価は全社平均で大幅に上昇。そのため、導入後には若干、会員数が減少するだろうと予測されましたが、実際は思ったほどではなく、結果的に、多くのお客さまに喜んでいただけていると考えています」と、舘内氏。
同サービスはジュニアクラスでも導入されていて、子どものプレイ風景のデータを両親などへ送ることもでき、家族間のコミュニケーションにも貢献している。
「テニスは強度の高いスポーツのため、プレイとプレイの間には休憩時間が必要です。モニターでプレイを振り返る時間をその休憩時間に設けることにより、今まであった1人あたりの練習時間を減少させずに、一球の質を高める設計になっています。また、お客さまにはスイング速度やボール速度などを計測したデータをお渡ししたり、2ヶ月に1度、プレイ中の動画を配信したりしているため、お客さまご自身での振り返りに役立てていただいています」
さらに生徒一人あたりの球数や運動量なども測定するなど、コーチの行動も分析。優秀なコーチの行動から全体のレベル向上につなげている。
「テニススクールは、基本的なサービス内容がほとんど同じ。テニススクールの商品価値を高め、これからも選ばれ続ける存在であるためにサービスの導入を決めました」と、舘内氏。
“最速で最高の上達”を目指し、同社の開発は今後も加速を続ける。