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ウェルネスの科学 第7回−

2016.01.05 火 オリジナル連載

ヘルスケア業界に突如現れた新星 “石川善樹”。本連載では、予防医学研究者・医学博士としての立場から見た、業界でのイノベーション創造に向けた考え方・ヒントを伝えていく。
【バックナンバー】
ウェルネスの科学ー
ウェルネスの科学 第2回ー
ウェルネスの科学 第3回ー
ウェルネスの科学 第4回ー
ウェルネスの科学 第5回ー
ウェルネスの科学 第6回ー

こんにちは。予防医学研究者の石川善樹です。

「おお!これは衝撃的な論文が出てきたな」と驚かされたので、今回はそれについて紹介させてください。

まず研究の背景なのですが、これまでにいくつもの研究で、「幸せな人たちは長生きする」と指摘されてきました。

たとえばイギリスで行われた調査で、「今のあなたの幸せ度は、4点満点で何点ですか?」というシンプルな質問で、なんと寿命が予測できると報告されています。幸せ度が4点満点の人たちは、1点の人たちより35%長生きするのだとか。

ただ、従来の研究には2つの意味で、致命的な弱点があったといいます。一つは、「因果の逆転」の可能性です。どういう意味かというと、「幸せ→健康」という因果の向きではなく、実は「健康→幸せ」なのではないかというものです。

もう一つの弱点は、「間接効果」が考慮されていなかったということです。これもどういう意味かというと、たとえば「不幸せ→お酒を飲む量が増える→不健康」というようなメカニズムがある場合、それはむしろ「お酒」の効果のほうが大きいのではないかというものです。

そこで行われたのが、「幸せは直接的に死亡率に影響を与えるのか?イギリス女性100万人調査」というタイトルの研究です。上記に挙げた弱点を考慮した上で、100万人を対象に分析した結果、「別に幸せでも長生きするわけではない」ことが分かったのです。

このような直感を覆すような発見が相次ぐので、やはり研究は面白いものだと、あらためて病みつきになってしまいます。

さてこの論文を詳しく読むと、これまでの研究で「幸せだと長生き」という傾向がみられたのは、2つの原因があるそうです。

一つは、「もともと不健康な人は不幸せになりやすく、かつ早死にしやすい」のですが、そのような人たちの存在を十分に考慮できていなかったこと。

もう一つは、不幸せな人は「煙草を吸う」ゆえ早死にしやすくなるそうです。

もちろん、これはあくまで一つの研究結果であり、今後もさらに様々な知見が出されると思います。私自身としては、たとえこの研究の結果が正しいと証明されたとしても、毎日が少しでも幸せになれるよう研鑽を重ねたいなと思っております。

PS.ちなみにですが、年収が300万円上がるよりも、1日10分のジョギングをしたほうが、幸せ度が上がるという研究があるそうです。

>>>Write by Yoshiki Ishikawa

石川 善樹

予防医学研究者・医学博士。(株)Campus for H共同創業者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。
NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法(マガジンハウス)』。