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ウェルネスの科学 第4回−

2015.08.25 火 オリジナル連載

ヘルスケア業界に突如現れた新星 “石川善樹”。本連載では、予防医学研究者・医学博士としての立場から見た、業界でのイノベーション創造に向けた考え方・ヒントを伝えていく。
【バックナンバー】
ウェルネスの科学ー
ウェルネスの科学 第2回ー
ウェルネスの科学 第3回ー

こんにちは。予防医学研究者の石川善樹です。

わたしは本質について考えるのが好きで、そのために日々さまざまな勉強をします。

たとえば、「健康」という言葉がありますが、この本質は何になるのでしょうか?!わたしはハーバード大学というところに留学していたのですが、そこで口酸っぱく先生方がおっしゃっていたのが、「本質に迫るためにはまず言葉の語源を調べよ!」ということでした。

そこで調べてみると、江戸時代まで「健康」という言葉は日本になかったようです。どうも明治時代に「Health」という言葉が日本に入ってきて、その訳語として「健康」は定着したようです。

ちなみに「Health」とは、Healという動詞を名詞にしたものです。Healは、いわゆる癒しなどでつかわれるヒーリングのことで、「完全な状態になる」という意味です。

この「Health」という単語を、おそらく日本で最初に訳したのが、福沢諭吉です。まだ20代の頃、福沢諭吉は「華英通語」という英和辞書を記しているのですが、なんとも驚くべきことに、Healthは「精神」と訳されているのです!

石川さん連載②

↑「華英通語」の中でHealthの日本語訳は「精神」とされている

すでに述べたように、Healthは「完全な状態」を意味しますが、なぜ福沢諭吉はそれを「精神」と訳したのでしょうか?おそらくこの背景には、当時の日本人にとって「完全な状態」とは、肉体的なことよりも精神的なことを意味したからだと思われます。

考えてみると、江戸時代に広く浸透していたのは、「養生」という概念です。これは、元気(=人が元々持っている気)に着目した概念で、貝原益軒の「養生訓」の中にも、次のような言葉が記されています。

「・・・今もっている元気を無駄に消費しないように倹約せよ」

つまり、臓器などの「病気」ではなく、もっと精神的な「元気」に注目するのが、日本人の伝統的な考えだったといえます。おそらくそれが理由で、福沢諭吉は「Health=精神」と訳したのだと思われます。

さて、それではいつ頃から「Health=健康」になったのでしょうか?私なりにかなり調べてみたのですが、実はいまだによく分かりません(もしご存知の方がいれば、ぜひ教えてください!!)。

ただ、ここで重要なのは、「健康=Health」の本質が、「完全な状態」にありそうだということです。そして、まさにそれこそが、予防医学の本質なのだと考えています。

つまり、単に病気を予防するだけでなく、「完全な状態=人が豊かに生きる」ことを考えることこそ、健康や予防医学の本質なのだと。

そう考えると、予防医学に携わる者として、視野を広く、志を高く持って、まだまだ頑張らないといけないなと身が引き締まる思いです。

・・・この辺で、今回はおしまいです。また次回お会いするのを楽しみにしています!(><)

(「ウェルネスの科学」次回のレポートは10月下旬を予定しています)

>>>Write by Yoshiki Ishikawa

石川 善樹

予防医学研究者・医学博士。(株)Campus for H共同創業者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。
NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法(マガジンハウス)』。