FITNESS BUSINESS

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指定管理者制度の課題と今後の施設ビジネス

2018.11.25 日 オリジナル連載

1.概要

2003年の地方自治法改正による「指定管理者制度」も本年で15年目を迎えている。本稿後段では、スポーツ・フィットネス関連企業3社の取り組みを紹介しているが、セントラルスポーツ株式会社35件、ミズノスポーツサービス株式会社164件(952施設)、東急スポーツシステム株式会社では親会社の沿線における街づくりに貢献など、確実な成果や実績がうかがえる。研究調査でも、自治体直営や外郭団体に比べ、制度導入後(民間事業者が運営)の経費縮減・サービス向上に大きな成果が出ているとの報告もある。一方、地方自治体では、社会保障関係費の急増とともに高度経済成長期に整備した公共施設が一斉に更新時期(大規模改修など)を迎えるなど、厳しい財政状況への対応を迫られている。これらを背景に、効果的・効率的な自治体経営の要請が高まり、’15年4月には全国で76,000以上の施設、特に都道府県および政令市では体育館・プールの90%以上に指定管理者制度が導入されている。

本制度は、「多様化する住民ニーズにより効果的・効率的に対応するため、民間の能力を活用しつつ、住民サービスの向上と経費の節減を図ること」を目的として制度設計された。地方行財政改革を推進するなか「新しい公共経営」(NPM=New PublicManagement) や公民連携(PPP=Public Private Partnership) を地方自治制度に導入した新たな手法であり、施設運営を通した地域活性化にも言及している。行政としては地域貢献策まで民間事業者に期待しているところだが、運営委託や自主事業の範疇から抜け切れていない事業者も未だ少なくない。今回紹介されている3社は制度の主旨を十分理解しつつ、PPP事業に参加しており、そこが受託できない企業との差かも知れない。

スポーツ庁調査(’15年度)によると、我が国の公共スポーツ施設の設置数は52,700で民間スポーツ施設(14,900)の3倍近くと報告されている(この数字は機能の数、例えば、温水プール、ジム、体育室、武道場などを1つとカウントしているため実際は約8,500施設程度)。総合体育館などは民間施設に比べて多機能なうえ規模や運営経費も大きいことから民間のノウハウやアイデアを十分発揮できる施設である。さらに、公共スポーツ施設の半数近くが築30年以上経過(高度経済成長期に建設)しているため、今後は老朽化する施設の大規模改修や建替えなど、PFIも多数公募されてくる。建設から運営まで長期(15 ~ 20年程度)に関与するPFI(RO方式含む)※は指定管理者以上に魅力的な事業といえよう。

2.全国のスポーツ施設の現状や将来計画を知る:「公共スポーツ施設ストック適正化計画」

スポーツ庁は、「スポーツ施設のストック適正化ガイドライン」を作成し、体育館や競技場、プールなどのスポーツ施設を地域の財産として有効活用するため、施設管理に不可欠な適正化計画策定の手順、運用方法などを解説している。それを受け各自治体(都道府県・市町村)は、’20年までにスポーツ施設ごとの計画(①現状把握:整備状況や老朽化の現状、②各施設の特徴と考え方、③今後の計画手順)を策定することとなっている(概ね義務化)。各自治体が作成した計画には、施設の目的や特性、今後の整備時期などが明記されるため、公共スポーツ施設関連ビジネスに参入する事業者にとっては、バイブルとなりうる。長野県上田市や栃木県宇都宮市、福岡県北九州市などが先進的に計画策定を完了しており、’20年までにすべての自治体で計画完了となるため、要注目である。

3.事業提案から実績評価の時代へ(モニタリング評価の重要性)

15年目を迎えた指定管理者制度は、すでに3巡、4巡と公募選定が繰り返し行われてきた。当然選定で重要となるのが「事業計画書(提案書)」であるが、優良企業が提案して採用された事業計画書は情報公開によって誰でも入手できるのである。したがって、類似の提案書の作成が容易になり、選定段階では事業内容やサービス向上策では大きな差がつきにくい。その結果、コスト削減に重きが置かれ人件費の大幅な抑制による官製のワーキングプアが問題化し、公共サービスに優秀な人材が集まらないといった課題に直面している。要するに、本社で物件獲得の企画提案力のある人材は収入も高いが、現場は人的コストが抑えられているといった傾向にある。

さらに、指定管理者で収益を上げるため、法令点検や清掃、安全管理や保全・修繕などが間引かれるケースなど重大な問題が生じ始めた。これこそが住民サービスの低下である。これらを改善するためには、既存運営者の実績を客観的に評価する仕組み(モニタリング評価)が重要となる。評価結果が高い場合には「継続や加点」、低い場合は通常の公募で競争させるなど、運営努力によるインセンティブを働かせ、現場のモチベーションを高める仕組みである。「机上の論が多い事業提案」より「実績評価」へと移行していくことが重要であり、制度の安定性や継続性にもつながっていく。

しかし、客観的評価(結果を数値化)を行いPDCAマネジメントサイクル(「計画(Plan)」→「実行(Do)」→「評価(Check)」→「修正行動(Action)」)により経営の安定化を図る仕組みは容易ではない。まだ改良の余地はあるが、「気づきのモニタリング」(指定期間の初年終了時)と「評価のモニタリング」(4年終了時)の第三者評価を2回実施する方法を紹介する。「気づきのモニタリング」を行うことで日ごろの管理運営の質を客観的に捉え(評価は事業計画書および業務仕様書などに沿って行う)、指定管理者としての強みや改善すべき点を把握する。評価の結果から課題を抽出し、改善活動に取り組む(改善・検証作業「PDCAサイクル」)。

次に、改善の成果を確認するためには、適切な時期に再度モニタリングを実施する。前回の評価結果と比較することでサービスの向上を目に見えるかたちとして表す。これを「評価のモニタリング」と呼び、この結果を次期の公募提案に反映させていく(高い評価の場合、次期公募で加点を与えるなどのインセンティブを付与)。このモニタリング手法は筆者が提唱し、制度の最適化を図る意味からも、導入する自治体が徐々に増えている。既存運営者にはぜひお勧めしたいので、詳細についてはお問い合わせいただきたい。

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