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株式会社MTG 松下 剛氏に訊く Venture Spirits

2016.05.25 水 オリジナル連載

溝口:社員との信頼関係を築くために行っていることはありますか。

松下:最近は人数が多くなってしまったので、全社員と話すことは難しいのですが、設立当初はお酒を飲みながら夢を語り合っていました。そこでは、皆が会議室では言えないようなことも話してくれました。そうして夢を共有して、当事者意識をもって経営に参画してもらっています。今でもそこは大事にしたいと思ってます。

溝口:私も当事者意識、経営者意識の総量が会社の成長に大きく影響すると考えています。当社は現在100人程度ですが、すでに社員全員と意思の疎通を図ることが難しくなっていると感じます。MTGさんは700人を超えていますが、松下さんが今もそのような意識でいることは素晴らしいと思います。

松下:「50〜60人ぐらいなら社員の一体感がもてるけれど、100人を超えると難しい」と聞いていると、実際に難しく、仕方のないことだと思ってしまいます。でも、本当は無理ではなくて、諦めるから無理なのです。私は300人ぐらいまでは社員一人ひとりとの時間をとっていました。今は部門単位でユニットの経営者を育成する仕組みをつくっています。

溝口:社員100人ぐらいから、経営者と一般社員の間の中間層が出てきます。その中間層が経営側か社員側かどちらの視点に立つかで変わってくるような気がします。

松下:組織に関しては改善、改革を進めていくしかありません。会社に見合う人材の質というのがあると思います。昔は新卒向けセミナーをしても人が集まりませんでした。でも、能力はそれほど高くなくても愛社精神をもっている人がいました。会社が大きくなると、未来をつくっていく優秀なメンバーが来ます。性質の違う彼らをどのように融合させるかが大事だと思います。能力の高い人だけを優遇していると、ずっと一緒にいた社員が辞めて、能力が高いだけの組織になってしまいます。それは組織として強いとはいえません。古くからの社員と優秀な社員が地層のようになっていく組織を目指しています。そのために行っているのが理念教育です。

溝口:非常に共感します。MTGさんは様々な商品を世の中に先駆けてつくっている、クリエイティビティ溢れる組織ですよね。そのような組織はダイバーシティが必要だと思いますが、理念やビジョン、ミッションが強い会社は、社員も均一化しやすいのではないかと思います。それが適している組織もありますが、御社は強い理念をもちながら様々な人が働いているのですね。当社も、ITに強い社員や財務に強い社員、トレーナー、栄養士など様々な社員がいます。私は、掌のように、平の部分は皆共有していて、指の部分でそれぞれが強みを出せるような組織を目指しています。今、それが少しずつできていっています。MTGさんは世の中にないものを次 から次へと発表していますが、その発想力やバイタリティはどこからくるのでしょうか。

松下:世の中いろいろなネタであふれています。今までは、商品開発と販路拡大の両方を行ってきましたが、今は販路を確立できたので商品開発にエネ ルギーを注ぐことができています。インキュベーションがあれば、尽きることはないと思います。

溝口:インキュベーションの考え方はあっても、それを下支えする、カルチャーや組織がない企業は、よいアイデアがあっても実行されないことも多いと思います。アイデアを実行するために、どのような工夫していますか。

松下:アイデアを実行するには、資金と、アイデアをかたちにする専門家、 それを売る販路が必要です。資金と販路は、これまで時間をかけてつくってきました。専門家は社内にいなくても、社外を探せば必ずいます。だからつくれないものはありません。そして、私たちはそれを販売する自信があります。自信がないとアイデアがあっても踏み込めません。その自信の根拠となるのは、マーケティングとブランディングです。

溝口:これまで培ったもののうえに成り立っているのですね。社外の人を巻き込むキュレーション力が非常に高いように見えます。マドンナやロナウドにCMに出てもらっていますが、世界的なスターにアプローチするだけでもすごいことだと思います。どのように交渉したのでしょうか。

松下:彼らに最初にアプローチしたのは5年ほど前で、当社は今よりも小さい会社でした。当然当社のことを知っているはずがなく、通常の攻め方では、相手にされないどころか、認知すらしてもらえません。自ら「マドンナを知っている人はいないか?」と伝手を辿って、チャレンジしていきました。最終的に、彼らが受けてくれたのは、もちろん商品の力もありましたが、当社の理念に賛同してくれたからです。 世界的な大物になればなるほど、理念を見ていますよね。先ほど組織づくりでも理念の話をしましたが、理念だけで会社が大きくなるとは思っていません。ただ、理念がないと一時的に大きくなっても、踏ん張らないといけないときにうまくいかないと思います。

溝口:理念は本当に大切なものだと思います。当社も、錚々たるメンバーが集まってくれたのは、理念に共感してくれたからです。松下さんは理念は最初からもっていたのですか。起業家の中には、起業することが先行しているケースが多く、明確な理念は後からつくっている会社も決して少なくないように思います。

松下:表現の仕方は違ったかもしれませんが、いっていることや思いは創業時と変わっていません。五島列島のお陰だと思います。でも、理念を全部実現できているかというとまだまだです。

溝口:今後のビジョンや課題はありますか。

松下:まずは経営システムを強化することです。人数が増え、海外にも進出するので、経営システムを強化して徹底的につくりこまないといけません。皆が成長できるシステムをつくっていきたいと思います。事業ビジョンはビューティとウェルネスですが、先々は世の中にプラスになるものにチャレンジしていきたいと考えています。

溝口:最後に、若い世代へメッセージをいただけますか。

松下:まだ私自身も40代ですのでえらそうなことはいえませんが、20代、30代の社員にいつも話しているのは、若いときにチャレンジ精神をもっていない人が、年をとってから湧いてくることは少ないということです。だから、若いうちから小さいことでもいいのでチャレンジしていって、積み重ねていってほしいと思います。そういう若い人が増えれば、日本ももっと元気になるのではないでしょうか。特に健康産業に関わる人は前向きでいなくては、豊かな社会にはなりません。ぜひ前向きに、チャレンジしていってください。

溝口:ありがとうございました

インタビュー:溝口勇児
’84 年生まれ。’03 年、フィッ トネスクラブ運営企業に入社。同社では新店のオープン、新規事業の立ち上げに参画、並びに約2年間で営業利益1億円の増収を達成。’12 年4月、株式会社FiNC を創業し、代表取締役に就任。

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