FITNESS BUSINESS

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【続】米国のパーソナルトレーニング最新事情-

2015.09.16 水 オリジナル連載

一人の日本人女性が日本からはるか9千キロ離れたアメリカ西海岸で活躍している。
名前は“奥野亜矢”

ハイパーフィットネスでのクラブ支配人経験後、更なる高みを目指しフィットネスの本場であるアメリカへ渡米。大学でフィットネスビジネスを学びつつ、米国の高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部のグループエクササイズ指導、クラブマネジメント分野など、業界の第一線で職務経験を積んでいる。その奥野氏が感じたリアルなアメリカのフィットネス業界の風景を伝える。

前回掲載した「米国のパーソナルトレーニング最新事情-」の記事配信後、多くの読者の皆様から反響を頂きました。とても励みになります、ありがとうございます。主に日本で活躍されているパーソナルトレーナーの皆様からご感想やご質問をいただきました。今回は前回の内容やご質問を踏まえ、米国のパーソナルトレーナーのキャリアパスについて、またアメリカで主流となっているトレーニングツールなど、指導現場で役立つ詳細の情報もご提供できればと思っております。

最初は、パーソナルトレーナーのキャリアパスについてです。前回の記事でもご紹介した通り、職業としてのパーソナルトレーナーの認知度は日本に比べアメリカは絶対的に高いです。まずパーソナルトレーナーになりたい場合、必須なのがサーティフィケート(証明書)。認可されているフィットネス団体でプログラム終了証明を取得する、またはコミュニティカレッジ(短大)、大学でキネシオロジー(運動生理学)を専攻し必要なサーティフィケートを取得します。専門学校や大学などで学ぶという点では日本と同様です。

トレーナーとしてのキャリアは2つに分かれる

アメリカの場合は、トレーナーとしてのキャリアは大きく分けて二つに分かれます。一つは一般のフィットネス参加者を顧客とし活動するパターン、もう一つはアスリート、クラブチームに帯同するトレーナーとなるパターンです。後者は日本と比べるとアメリカは莫大なマーケットですので、資金流通量もチャンスも多いです。しかしその分、非常に競争も激しく、実力はもちろんのこと多くの場合ネットワーク、コネクションが重視されます。学生は在学中からインターンシップやクラブチームでのボランティア活動などに積極的に参加し、経験を積み、スキルを磨き、そしてネットワークを広げます。在学中から顧客を獲得しトップトレーナーになる人材もおり、私の所属するクラブでもトップ3のトレーナーのひとりは23歳の学生です。

以下、一般のフィットネス参加者を顧客とするパーソナルトレーナーに焦点を絞って話を進めます。サーティフィケート取得後、フィットネスクラブ、パーソナルトレーニングジムに所属し、自身の顧客ゼロの状態からスタートします。まずはジムでのセールス(売り込み)を行います。新規入会者の無料セッションなどを担当できることもありますが、自ら積極的に会員へのアプローチをしなければなりません。また、スモールグループセッション、各種グループエクササイズやスピニングクラスを担当することで、自身の認知度を高めることもできます。

自分の強み、キャラクターを分かりやすくアピールすること、コミュニケーション能力、セールス力やタイムマネジメント等、独立自営同様、顧客が定着するまでが最も精神的忍耐力が必要な期間であると思います。アメリカではビジネスにおける売り上げ、数字での評価はとてもドラスティックです。フィットネスに限らずどの職種においても、数字で結果を残せない場合は容赦なく解雇されます。自分に自信を持ち、目標を見失わずに情熱を持って経験を積むことで、成功への階段を登って行くのだと思います。

ストレッチ画像

アメリカのアスリート/スポーツトレーナーはマーケット規模が大きい分、競争も非常に激しい

ステップアップの手段

固定顧客が一定数に達し、自分のスケジュールの上限に近い状態になったら、次のステップとして売り上げ単価のアップが必要となります。クラブによっては、トレーナーのレベルによってランク分けされ、セッションの金額が違う場合もあります。自身のクラブへの貢献度で単価交渉も可能です。または、この段階で独立し自分のジム、スタジオを起業するパーソナルトレーナーも多く存在します。

もちろん規模、立地にもよりますが、独立し自分のジム、スタジオを経営し、さらに成長軌道に乗せるには、圧倒的に日本の方が難易度は高いと言えます。前回の記事にも記述した圧倒的なマーケットの問題(フィットネス参加率)、マシンやツール購入の初期投資費用(日本の場合輸入が多く高い)、建築工事費や家賃等(立地より大きく違いますが、坪当たりの単価はアメリカの方が比較的安い)、アメリカの方がチャンスは多いと考えます。

他にもパーソナルトレーナーから経営サイドへ移行するパターンや、副業とする人など働き方は様々ですが、以上が一般的なアメリカでのパーソナルトレーナーのキャリアパスとなります。どの立場においても、やはり自分の知識、技術のブラッシュアップ、自己研鑽は常にパーソナルトレーナーにとって必要不可欠となります。

フィットネス大国の先進のトレンドとは?

最後に米国の現在のパーソナルトレーニングトレンドをご紹介します。もちろん顧客のニーズによりますが、現在の主流はファンクショナルトレーニングです。どのフィットネスクラブでも見かけないことがない”TRX”、ロシア発祥のケトルベル、ダイナミックな動きのトレーニングロープ、トレーニングバンドやストレングストレーニングボール、スレッドトレーニング、マッサージバーを使用してのクールダウンなど、ウエイトマシンやバーベルのみを使用したパーソナルトレーニングより、よりカスタマイズされた内容を提供している場合が大半です。

また、各コーチの顧客管理ツールはデジタルツールが主流です。iPadを使用しデータ管理しています。しかし、紙のトレーニングメニューに手書きでファイルしているコーチもいます。どのコーチも、セッションだけでなく次回までに自分でできるトレーニングの課題を顧客に指導し、ジムの継続利用を促しています。

“ウェルネス、健康を通じてお客様の人生をより良くするサポーター”がパーソナルトレーナーだと私は思います。身体も心も元気な人が増えることが、日本全体を元気に、活気づけると信じています。

【バックナンバー】
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米国のデジタルフィットネス市場とは-
リアルヨガ&ピラティス事情 in LA-
ウェルネスの効果を最大化する!アメリカ栄養指導の最新事情-
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>>>Write by Aya Okuno

奥野 亜矢

ロサンゼルス在住。自身の柔道家としてのアスリート生活の経験から、「大好きなスポーツ、フィットネスを通じて多くの人を幸せにしたい!」と志しフィットネス業界へ。
コナミスポーツ、ハイパーフィットネスにてトレーナー、グループエクササイズディレクター、そしてクラブ支配人を経験。”フィットネスの本場 アメリカ”でビジネスキルを磨き、挑戦するため渡米。高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部にてグループエクササイズ指導、クラブマネジメントに携わる。