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ウェルネスの科学 第5回−

2015.11.02 月 オリジナル連載

ヘルスケア業界に突如現れた新星 “石川善樹”。本連載では、予防医学研究者・医学博士としての立場から見た、業界でのイノベーション創造に向けた考え方・ヒントを伝えていく。
【バックナンバー】
ウェルネスの科学ー
ウェルネスの科学 第2回ー
ウェルネスの科学 第3回ー
ウェルネスの科学 第4回ー

こんにちは。予防医学研究者の石川善樹です。

少し前になりますが、「日本人は毎日どれくらいテレビを見ているんだろうか?」と調べたことがあります。総務省の調査によると、日本人は一日に平均4時間40分テレビを見ているそうです。ちなみに諸外国では、ヨーロッパ人が3時間、オーストラリア人が4時間、アメリカ人が5時間、毎日テレビをみているのだとか。すごいですね。

そんな私たちに警鐘を鳴らしているのが、ハーバード大学のフランク・フ教授です。

「現代人はほとんどの時間を、仕事するか、寝るか、あるいはテレビを見て過ごしています」

2011年6月15日、フランク教授の研究チームは、驚くべき研究成果を発表します。過去40年間に行われた研究を統合して分析した結果、テレビを見る時間が2時間増えるごとに、糖尿病のリスクが20%、心臓病のリスクが15%、さらには早死にするリスクが13%増加するというのです。

特に、一日のテレビ視聴時間が3時間を超えると、早死にするリスクが急増することがわかりました。

ちなみに、日本人と同じぐらいテレビを見ているオーストラリアの研究では、テレビを1時間みるたびに、寿命が22分縮まると報告されています。さらに、「テレビを一日6時間みることは、タバコを吸うのと同じくらい健康に悪い」と、研究者たちは指摘しています。

それにしても、なぜテレビをみると、病気になりやすかったり、早死にしやすいのでしょうか?

フランク教授は、1)体を動かす時間が少なくなる、2)テレビを見ている間につい食べてしまう、などが原因で太ってしまうからではないかと述べています。

 

「テレビがなければ、本当はもっと有意義なことに時間をつかえるのに・・・」

頭では十分理解していても、好奇心という誘惑の前に、私たちは簡単に屈してしまいます。

そうかといって、明日からテレビを見ないで過ごせるか、というときっと難しいと思います。では、どうすればいいのでしょうか?

テレビ大国アメリカに目を向けると、「どうすればテレビを見る時間を減らせるのか」、様々な研究が行われています。

2008年1月、アメリカ疾病管理予防センターは、「視聴時間を減らすための行動的介入について」という報告書を発表しました。テレビを見る時間をへらすために、いくつもの方法を研究した結果、特に有効だったプログラムが

「スイッチオフ・チャレンジ」

です。以下、具体的な内容についてみていきましょう。

ステップ1.見たいテレビ番組をあらかじめ決めておく

テレビをつけてから、なんとなく見たい番組をさがすのではなく、あらかじめ見たいテレビ番組をリストアップしましょう。

ステップ2.見ない番組を1つだけ決める

見たいテレビ番組をリストアップしたら、その中から一つだけ、“見ない番組“を決めます。

ステップ3.実行できたら、自分にご褒美をあげる

見たいテレビ番組をあらかじめ決めておき、そのうち一つだけを見ないことができたら、自分にご褒美をあげましょう。ご褒美は、お菓子でもジュースでも、なんでもいいです。

このスイッチオフ・チャレンジを一言でいえば、

「テレビをいつ見終わるか、見る前から決めておく」

ということにつきます。

テレビをつける前に、「今日は、何時間みようかな?」と決めるだけでいいのです。そして、2時間なら2時間と決め、時間がきたら「ピッ」と、断固たる決意で消してください。

「え、そんな簡単なこと?!」と思われるかもしれませんが、たったそれだけのことができないから、わたしたちは寿命を縮めてまでテレビをみているのです。

考えてみると、「終える時間」を決められるかどうかは、テレビに限った話ではないかもしれません。何をやるにしてもテキパキする人とダラダラやる人がいますが、両者の違いは、「いつその作業を終えるのか、あらかじめ決めているかどうか」という違いがあるように思います。

テレビを入り口に、自分の生活を見直すのもいいかもしれませんね。

>>>Write by Yoshiki Ishikawa

石川 善樹

予防医学研究者・医学博士。(株)Campus for H共同創業者。1981年、広島県生まれ。東京大学医学部卒業後、ハーバード大学公衆衛生大学院修了。「人がより良く生きるとは何か」をテーマとして研究し、常に「最新」かつ「最善」の健康情報を提供している。専門分野は、行動科学、ヘルスコミュニケーション、統計解析等。
NHK「NEWS WEB」第3期ネットナビゲーター。ビジネスパーソン対象の講演や、雑誌、テレビへの出演も多数。著書に『友だちの数で寿命はきまる 人との「つながり」が最高の健康法(マガジンハウス)』。