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2020.04.13 月

【特別コラム】小規模施設は困難な局面でもスピード性をもって決断と実行を

ジム・スタジオ 新型コロナ対策

来館できなくなった会員向けに、スタジオからZOOMでレッスンのLIVE発信。機材や編集よりも、とにかくスピードを重視した

新型コロナウイルスの感染拡大を受け、困難な局面に立たされているクラブやインストラクター・トレーナーは多いことだろう。フィットネスビジネス編集部では、現在、本誌に連載「Small Business」をご担当いただいている株式会社Scoop代表取締役板倉陽一氏に、同氏が運営するブティックスタジオ「おゆみ野スクエア」での取り組みをご紹介いただくことで、そのような施設やインストラクター・トレーナーに参考にしていただきたいと考えた。以下に刻々と変化する状況のなか、同施設がどのような対応を行っていったのか、フィットネスビジネス5月発行号の同連載を、一足先にここにご紹介する。

最優先は既存会員やクライアントの維持

新型コロナウイルスの影響により、フィットネス業界が大きく揺れています。スタジオ・ジム経営者ならば、グループレッスンをなくしたり、完全にクローズにしているところもあるでしょう。休会や退会が出てしまっているところも多いと聞いています。フリーインストラクターや店舗をもたずに活動しているパーソナルトレーナーも、スポーツクラブでのスタジオレッスンが軒並みクローズになったり、トレーニングする場所がクローズになり、まったく仕事がなくなってしまったという話も聞きます。

私たちの経営するおゆみ野スクエアも大きな影響を受けました。そこで、今回は予定を変更して、この騒動のなか、私たちがどのような行動を取ったのか? こういった不測の事態に必要なことは?についてお知らせいたします。特にスモールスタジオ・マイクロジム経営者や、フリーインストラクター・パーソナルトレーナーの方など、個人~小規模事業者に参考にしていただけたらと思います。

スタジオやジムにとって、本来であれば、今の時期は春の新規獲得のシーズン。おゆみ野スクエアでも、2月からポスティングを強化していました。しかし、状況は一変しました。webに力を入れようが、ポスティングの枚数を増やそうが、そのコスト・労力・時間に見合った集客はできないでしょう。それよりもまず大切なのは、既存の会員やクライアントの維持です。そのために私たちは以下の行動や対策を講じました。

1.安全性の徹底と情報発信
今回の騒動、メディアの正しくない発信によってフィットネスがやり玉にあげられてしまいました。これが最初に休会や退会が出てしまった最大の原因です。あれだけ不安を煽られれば仕方ありません。そこで、まず最初に私たちは、安心・安全をアピールしました。3月にFIAから出されたガイドラインがありましたが、これに沿った運営をし、それをしっかり発信しました。

FIAが発表したガイドラインにある十分な換気や、参加者同士の距離の確保に加え、スタジオ内に次亜塩素酸水を噴霧し空間除菌も行った

2月にメディアでスポーツクラブが悪者扱いされた直後、おゆみ野スクエアでも休会希望者が何名か出ました。すぐに次亜塩素酸水(漂白剤を薄めてつくる次亜塩素酸ナトリウムとは違い、食塩水を電気分解して生成したもので、弱酸性で人体に無害にもかかわらず、その効果は優れているものです)で手指の除菌や、館内すべての清掃や空間除菌対策をしていることを発信したところ、その直後から休会が止まり、皆さん安心して来館されるようになりました。

館内のあちこちに次亜塩素酸水のボトルを設置。会員や近隣住民に対しても無料配布したところ大変好評であった。スタジオ休止中も無料配布を継続しており、会員との関係維持に役立っている

2.オンラインでのレッスンLIVE配信
それでも日ごとに感染者が増えたり、毎日の不安な報道に「来館するのが怖い」「来たいけど、家族に止められた」「家でYouTube見ながら1人でやっていてもつまらない」という声があがりました。

そこで、来館できない会員向けに、オンラインでレッスンをLIVE配信することにしました。その際、重視したのがスピードです。午前中に上記の声を聞いてすぐ、パソコンをスタジオにもち込み、ZOOMで配信することを決めました。すぐにZOOMが初めての会員向けにマニュアルサイトをつくり、LINEやメッセンジャーなどで配布。その日の夜のレッスンからLIVE配信を開始しました。

余談ですが、ほかの同規模のスタジオでもオンライン配信をした方も多いと思いますが、そのころのSNSの投稿を見ていると、「オンラインレッスンのために勉強します」や「撮影した動画の編集にてこずっています」といった方が多くいました。こういったときというのは、クオリティよりもスピードを重視するべきです。それが個人~小規模の強みでもあるのですから。

こうして、スタジオに来られなくても、ほかの会員やインストラクターとのつながりを維持することができ、結果、休会や退会という方は出ませんでした。

3.必要なものを届ける
オンラインでのレッスン配信もそうですが、そのとき会員が必要なもの、困っていることに全力で対応しました。今回の騒動でもっとも多かったのが、マスクや消毒液の不足ではないでしょうか。これは偶然ですが、当施設では、除菌・消毒のための次亜塩素酸水を生成できる機械を保有していました。毎日自家生成し、空のペットボトルに詰め、会員や近隣住民への無料配布を開始しました。これは非常に喜んでいただき、毎日数名の方がもっていかれます。

何も特別なものでなくて構いません。会員やクライアントの声をいま一度しっかり聞いてみてください。

4.休止の決定
私たちにできることは精一杯やってきましたが、それでも爆発的な感染には勝てません。会員や委託インストラクターの感染リスクを考え、ほかのスタジオやクラブよりも早い、4月4日からスタジオレッスンの休止を決めました。

すぐに「休止中の口座引き落とし停止の件」「未消化のチケット繰り越しの件」などを含めた休止の案内をつくり、全会員宛てに郵送しました。日ごろ、主にFBやインスタで情報発信やイベントの告知をしている私たちですが、この手紙にはLINEのQRコードを載せ、休止中でもコミュニケーションが取れるようにしました。こうすることで、休止前と同じような状態で再開を目指してます。

もちろん休止を決める際、超少人数定員での継続という選択肢もありましたが、インストラクターの通勤時の感染リスクや、万が一のことを考え、完全に休止という決断をしました。

同じような規模のスタジオ経営者からは、「スタジオ休止ということは、その間の会費収入が途絶えるってことですよね。どうするんですか?」という連絡もありました。もちろん会費収入が途絶えるのは非常に痛手です。

このような状況ですから、同じように休止するところはもちろん、休止していなくても大きく売り上げを落としているスタジオ・ジム経営者、活動場所がなくなってしまったインストラクターやトレーナーのなかには、融資の申し込みをした方や準備をしている方も多いでしょう。たしかに今回の緊急融資というのは、無担保・無利子という好条件かもしれません。そのため、資金は潤沢にあるが手元に置いておき、使わなければそのまま返すという方はいいでしょう。

しかし、本来融資とは、発展的な使い道に則った事業計画のもとに受けるもの。落ち込んだ収入を一時的に補填するためのものではありません。それもいつ収束するかわからないこの事態において、補填のために融資を受けるのはお勧めしません。それならば、いっそ廃業や転職し、資金を貯めて再起したほうがよいでしょう。

私たちの会社では、現在のところ融資を受ける考えはありません。それだけ内部留保が潤沢かといえば、そこまで多くはありません。では、なぜ会費収入が途絶えたうえで、さらに融資も受けずに存続できるのか? それは、ほかにも複数の事業を展開しているからです。現在私たちの会社では、フィットネスのほかに「整体院」「美容商品の販売」「英会話スクール」「学習個別指導」「コンサルティング」といった事業を行っており、そちらからの売り上げ(収入)が確保できています。

現在フィットネスでのオンライン配信はストップしているが、英会話スクールや学習個別指導では引き続きZOOMを活用してレッスンを継続。複数の事業展開をしていることで、キャッシュフローも安定している

複数の収入の柱

スタジオ・ジム経営者にしろ、インストラクター・パーソナルトレーナーにしろ、今回の件で収入減という方が大多数でしょう。しかし、ビジネスをしていると不測の事態というのは必ず訪れます。記憶に新しいところでいえば、昨年秋の台風15号や19号。停電や浸水などによって大きな被害を受けた方もいるでしょう。また、少し前になりますが、2011年の東日本大震災。このときの被害は尋常ではありませんでした。当時、私の経営する治療院は、売り上げが20%(80%減)まで落ち込みましたが、かろうじて廃業せずに済みました。しかし、周囲では廃業したところも多くありました。残念ながら、今回の件でもすでに廃業したスタジオや、転職したインストラクターもいると聞いています。こういった不測の事態に備えるために、大好きなフィットネスの仕事を続けるために、複数の事業・複数の収入の柱をもつ必要があります。

ではこのような事態の今、何をどうやっていけばよいのでしょうか?

オンラインレッスン

先ほども書きましたが、「オンラインレッスンをやります」というSNSでの投稿をよく目にします。たしかに、配信する側としても、さほど大きな手間がかかりません。また、こんなときですから、外出せずに自宅で運動したいという方も大勢いることでしょう。

スタジオ・ジム経営者や、個人で活動しているパーソナルトレーナーであれば、既存の会員やクライアント向けに提供するのはいいでしょう。インストラクターでも、もともとご自身のサークルをもっていたり、コミュニティをつくっている人であれば、集客もうまくいくでしょう。この機会にオンラインレッスンを仕組み化し、収入の柱の1つにしてください。

しかし、スポーツクラブやほかのスタジオで業務委託だけで活動していたインストラクターはどうでしょう? 顧客やリストをもっていない人が、たいした準備もせずにオンラインの市場に参入しようとしても、集客できるでしょうか? かなりハードルが高く、そこからすぐに収益を上げるのは厳しいでしょう。もちろん今回の件をきっかけに、将来的に確立していくことは賛成です。しかし、今すぐの収入を得ようとするのであれば、短期でアルバイトするほうが確実です。

好きなことをして生きていくために

いうまでもなく、小さなスタジオ・ジム経営者も、フリーインストラクター・パーソナルトレーナーも自営業者です。好きなことをして生きていくという道を選んだということです。私もあなたと同じです。今や会社員でも副業をする時代。誰も保証などしてくれない自営業者こそ、複数の収入源を確保しなくてはなりません。その確保の選択肢としては大きく分けて2つあります。

1つ目は、まったく違う職種で雇われる(アルバイト含む)ということです。インストラクターをしながら倉庫の仕分けだったり、スタジオやジムを経営しながらヘルパーという具合です。そのほかにも、コンビニやファミレスのバイトもあれば、週2日の派遣事務、在宅での入力の仕事だってあります。好きなフィットネスという仕事を安心して続けるために、一方で雇われるという選択です。それも業務委託ではなく、雇用されるというかたちでです。こうすることで、万が一に備えることも可能です。

そして2つ目は、新たなスキルをしっかり学び、新たなビジネスを立ち上げるということです。先ほども書いたようなオンラインでのレッスンもいいでしょう。もともともっている知識やスキルを活かしたり、新たな知識を身に付けてコンサルタントとして活動するのもいいでしょう。またはまったく違う分野で起業・事業展開するのもひとつです。

私自身、’02年に整体院を開業しましたが、そのほかマーケティングコンサルタント、人材派遣業、サプリメントの開発とオンライン通販、患者向けのDVD制作とオンライン販売、ダイエット事業、フィットネス事業、子どもの教育事業などなど相当数のビジネスに参入しました。大きく成長し継続しているものもあれば、事業譲渡したものもあります。なかには、思ったように伸びずに撤退したものもあります。また、現在準備中のビジネスもあります。これだけやっていると、「何屋なの?」と聞かれることがありますが、そもそも「何屋」と定義する方がナンセンスだと私は思っています。

一昔前は、「手に職をつけて云々」という考えがありましたが、今はそれで食っていけるほど甘くはありません。むしろ、時代の流れや社会を見つつ、マルチに活動できる人間だけが残っていける時代です。

老いはすべての人にやってくる

せっかく複数の事業や収入について考えるのであれば、もう1つ併せて考えてほしいのが“老い”についてです。私が現在のように複数の事業・収入の柱を考えるようになったのは、治療院だけを経営していたころです。収入を伸ばすためには施術回数を増やさなければいけない。反対に体力的なことを考えると収入は伸びない。プレイヤーである限り、これは永遠のテーマです。

しかし、年齢とともに必ずパフォーマンスは落ちます。生涯現役というのは現実的に無理があります。いかに自分が動かずとも売り上げが上げる方法や、年齢関係なく可能なビジネスというのも、この機会に考えてみてください。

今のあなたの行動が大きな転機となるはずです。ぜひ真剣にこれからのことを考え、そして取り組んでみてください。

※執筆者プロフィール
株式会社Scoop 代表取締役/マーケティングコンサルタント 板倉陽一
フィットネス業界未経験ながら、2017 年4月、千葉市緑区にブティックスタジオ「おゆみ野スクエア」をオープン。スタジオは「駅から10 分以上かかる住宅街の中」「マシンなしのスタジオレッスンのみ」「タオルやウェアなどのレンタル一切なし」「入会キャンペーンなし」という条件にも関わらず、「月会費2万円」「半年以上の継続率98% 以上」という経営を行う。そのほか、スモールスタジオやマイクロジムのコンサルティング活動も行っている。

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