FITNESS BUSINESS

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“世界のフィットネスビジネス、その舞台裏の風景Ⅱ” 

2015.03.02 月 オリジナル連載

「我々のクラブは価格で差異化している。可処分所得が高い人々は、我々のクラブを選ぶことができ、低い人はそうはできないのだから他のクラブを選ぶ」。サンフランシスコベイクラブ創業者、ジム・ガーバー氏は、かつてこう言った。市場での差異化戦略について訊かれた際の言葉だ。

米国フィットネスクラブ業界における棲み分けと差異化

実際に米国の高級総合クラブを経営していた現場では、他業態のクラブを競合として見ていない。極端な話、隣のブロックに『24hour Fitness』や『Anytime Fitness』が出来たとしても、総合クラブを運営しているクラブは競合対策を取ることはないであろう。

消費者の立場で見ればシンプルである。『24hour Fitness』にはジムとスタジオとロッカーがあり、月35ドル未満で通うことができる。2、3年の長期契約を結めばその価格はさらに安くなり月19ドル程度になるだろう。『24hour Fitness』はその名が示すように24時間は営業しておらず看板に偽りがあるが…それであれば『Anytime Fitness』のほうを選ぶ消費者もいるだろう。24時間いつでも使えて、レッスンは映像レッスンか全く無しという選択をすると、月に40ドル未満でいつでもどこでもアクセス可能なクラブに入会できる。

また、安価なチョイスを探しているのであれば、『Planet Fitness』がある。月に10ドルで広大なジムをストレスなく利用できる。レッスンは無く、1日に数回インターバルトレーニング的なサーキットトレーニングを実施しているだけだが、月に数回ベーグルとコーヒーの朝食サービスまで実施している。価格重視でジムの利用のみを考えている人はそれで十分だろう。チェーンの全店利用がしたければ20ドル出せば家のそばと仕事のそばのクラブを両方使うことができる。

可処分所得が高いプロフェッショナルは、どのようなクラブの選択肢があるのか?

サンフランシスコであれば、幾つか選択肢はあるが、総合クラブでは選択肢は大きく分けて2つ。Equinox Sports Club』『Bay Club San Francisco』である。どちらのクラブも、巨大なフィットネスジム、複数のスタジオと驚異的な数のレッスン数、ラグジュアリーなロッカールーム、ジャグジー、プール、バスケットボールコート、ヨガセンター、そしてエステ・スパ施設等を用意している。両方とも、文字通りの高級総合クラブである。入会金は5万円前後で、月会費は185ドル以上、テニスやゴルフオプションを付ければ、月会費は3万円に近くなる。

この2つのクラブに加えて、ブティックタイプの目的特化型クラブや、クロスフィットのようにプログラムやトレーニング自体が商品となっている施設もあり、こちらも120ドル以上の会費や利用料が一般的。消費者には、ジムに通う、クラブに加入する、プログラムを購入する、パーソナルトレーナーを使うなどの様々な選択肢があるわけだが、果たして前述のガーバー氏の言葉は正しいのか? 価格で言えば10倍以上の開きがあるクラブが現実に存在するので、ガーバー氏の言葉は現実味を帯びている。

日本のフィットネス業界の今後は・・

日本のクラブビジネス業界においては、現在、価格差が10倍以上あるような状況ではないが、近い未来には月会費が2万円以上するクラブや、1,000円で通えるクラブの出現は十分にありえる。ホテルのヘルスクラブが今でも150万円の入会金や保証金を取っているという話はよく聞くが、それより下の価格帯のポジショニングはほとんどが1万円前後のクラブなので、市場を価格で棲み分けていると結論付けるのは未だ難しい。市場が成熟し、サービスや施設内容も多様化してきている中で、消費者が分かりやすいポジショニングをとれるクラブが今後存在感を増すようになることは間違いないだろう。

【バックナンバー】

“世界のフィットネスビジネス、その舞台裏の風景Ⅰ” 

>>>Write by Tomoyuki Ishikawa

石川 友行

1996年、「世界一のクラブゼネラルマネージャーになる」という夢を実現するため、それまで在籍していた株式会社東急スポーツオアシスを退職し、渡米。米国の超優良スポーツクラブ企業であるウェスタンアスレチッククラブスにて3クラブのゼネラルマネージャーを歴任する。日本と米国のクラブマネジメントの架け橋となり、米国のクラブ経営、オペレーションを紹介した。’09年に日本に帰国後、株式会社東急スポーツオアシスに復職し、オアシスラフィール恵比寿のマネージャーを務め、そのほか2店舗の統括マネージャーを担当。現在はクラブツーリズム株式会社の顧問として新規事業部に所属しながら、日本のフィットネス業界の地位を向上させるべく、奮闘する。