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【NEXT 6月特集】世界で活躍する日本人トレーナー  

2017.06.16 金 スキルアップ

#5 元NBAミネソタ・ティンバーウルブススポーツパフォーマンスディレクター 佐藤晃一さん

【ミネソタ・ティンバーウルブス】
アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリスに本拠を置く全米プロバスケットボール協会(NBA) 登録チーム。リッキー・ルビオ、カールアンソニー・タウンズが所属。

佐藤さんはバスケットボール界最高峰のプロリーグであるNBAチームのスポーツパフォーマンスディレクターとして、選手たちの最高のパフォーマンスを引き出すことが求められる環境で活動をしていた。アスレティックトレーナー(AT)を志したのは、大学時代に没頭したアメリカンフットボールを通じてトレーニングやリハビリに興味を持ち、アメリカにアスレティックトレーナーの資格(ATC)があることを知ったことがきっかけ。

大学卒業後、大好きな、シカゴ・ベアーズの本拠地があるイリノイ州にある大学に留学した。とにかく大学時代は図書館に入り浸って勉強に打ち込んだという。佐藤さんにとって、ATとしての力が最もついたと振り返るのが、大学院に進んだアリゾナ州立大学(ASU)時代。

様々なスポーツチームに合計500人を超える選手が所属する大学の現場では、担当するスポーツに限らず多種多様な選手と怪我に対応する経験を積むことができたそうだ。「今もそうですが、あの頃は特に新しいことを学んで、それを現場で使っていました。その繰り返しが、自分のアプローチの根幹になっていると思います」


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他の多くのATCやスタッフと一緒に働けることも大学の現場の大きな利点だという。対照的に、多くても15人という限られた数の選手に対して多くのスタッフが所属するNBAでは、数という点で現場経験が積みにくいという。

「NBAでは、選手に対して、AT、S&Cコーチなどのサポートスタッフの数が多く、医師、栄養士など、その他の専門家へのアクセスも非常に良いので、役割が限られがちです。したがって、せっかく多くのトレーニングやリハビリの方法を知っていても、それを使う機会も限られるのが現状だと思います」

これを踏まえて、佐藤さんは、「NBAや他のメジャープロリーグを目指すのであれば、そこにたどり着くまでに経験値を増やしておくことが大切」とアドバイスする。ブリストール・ホワイトソックスで、一夏、ヘッドATCとしてひとりで仕事をしたことは自立する上での自信につながったという。

佐藤トレーナーのキャリアステップ


「身近に相談できる同僚のATCやスタッフがいたASUと違い、マイナーリーグでは電話一本で上司と相談はできるものの、現場ではひとりで業務を行ないました」シーズン後、「ひとりでやっていける」という実感ができたと振り返る。また、MLBの春季トレーニング地であり、多くのスポーツ選手がオフシーズントレーニングを行うアリゾナの地の利を生かして、トレーニング施設やクリニックを積極的に訪問したことも大きな経験になったという。

後に所属することになAthletes’Performanceからリクルートされるきっかけも、その時に掴んだ。そこから、NFL選手のサポート、NBAそして現在の仕事へと繋がっていく。佐藤さんは2016年に日本に帰国し、現在は、日本バスケットボール協会(JBA)に新設されたスポーツパフォーマンス部会の部会長として、選手や指導者の育成指導方針から、男女代表チームの総合的サポートに携わっている。

日本のバスケットボールという新しい環境で、幅広い年齢層の選手をサポートし、ATとしての役割をより高いレベルで果たそうと活動中だ。日本ではアスレティックトレーナーのさらなる社会的認知拡大の余地があるものの、怪我から競技復帰まで選手を導くことのできるATは、その資質を選手の総合的サポートに積極的に生かしてその特性を存分に表現するべきだという。

「ATは怪我の有無に関わらず、選手のパフォーマンス向上、そして傷害リスク低減のために、『ケア→アスリハ→パフォーマンス・S&Cトレーニング→スポーツスキル』の流れに包括的に関わることができると思います。私が今注目しているのは、『スポーツスキル』の部分です。

例えば、コーチが選手にサイドステップなどの横の動きを教えているのに選手ができない場合、ATがその原因を突き止めて、ATの立場から動きを行うための基本的な動きの要素、例えばスクワットや地面を横に押す方法などをできるようにしてあげれば、選手のパフォーマンスアップにつながります」

コーチや選手が気づきにくい部分をATの包括的な視野で観察し、適切な手法を使って介入をすべきということだろう。私はよく『カナヅチしか持っていないと、すべてが釘に見えて叩くことしかできない。様々な道具を持っていれば、その問題を違う方法で解決することができる』という例を出すのですが、トレーナーとしてはもちろん、人間としても広い視野や経験を持つことで、多様な方法で解決できるようになる。そのために、まずは常にいろいろなことに興味を持ち、知ろう、理解しようとする姿勢がもっともっと必要だと思います」

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