FITNESS BUSINESS

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新時代の自治体マーケティング-機能する地域包括ケアシステムの構築

2015.06.11 木 ヘルスケア/ウェルネス

2025年には団塊の世代が75歳以上となり、介護が必要な高齢者の数が急増する。これに備え、国は2014年6月に「医療介護総合確保推進法」を成立させた。介護保険は一部給付が縮小され、市区町村が行う地域支援事業の重要度が増すことに。

各自治体には、地域の自主性や主体性に基づき、それぞれの地域の特性に応じて、たとえ生活者が重度な要介護状態となったとしても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供する地域包括ケアシステムを構築していくことが求められている。

重要性を増す地域包括システムの構築

この地域包括ケアシステム、まだ完全とはいえないまでも部分的に、すでに複数の自治体で先進的な事例が生まれつつある。その中でも、特にフィットネス事業者の今後の事業展開にも参考になるだろう大田区地域包括支援センター入新井が中心になって進めている事例を紹介したい。

団塊の世代が75歳以上となる2025年を目途に、重度な要介護状態となっても住み慣れた地域で自分らしい暮らしを人生の最後まで続けることができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域包括ケアシステムを構築することを、各自治体は目指している。2014年6月に成立した医療介護総合確保推進法では、介護保険制度の予防給付の対象であった「要支援」のうち、訪問介護と通所介護について、2015年4月より3年間かけて「市区町村が取り組む地域支援事業」へと移管することが定められた。

これまでは、全国一律のサービスだったものが、市区町村に移行することで、市区町村の財政状態やトップの意識次第で、サービス内容や利用料に差が出る可能性はでるものの、NPOやボランティア、さらには民間事業者なども参画して、多様なサービスの提供が可能になるため、ここはフィットネスクラブなどを運営する民間事業者、トレーナー・インストラクターにとってもビジネスチャンスといえる。

7割以上の参加者が効果を実感

ここでは、東京都大田区の地域包括支援センター入新井が中心になって進め、成果を挙げている「ポールdeウォーク学校」の事例を紹介したい。

東京都大田区に20ヶ所ある地域包括支援センターの一つ同入新井は、高齢者の孤立を予防し、安心して暮らし続けるためには、高齢者自身が元気なうちから地域とつながる意識をもち、早い時期から地域包括支援センターとつながり、さらに地域のなかで身近な高齢者の異変に気づき、介護や福祉、保健や医療などの専門機関へ早期に連絡できるような専門職のネットワークと地域住民同士の人間関係やネットワークが必要であると考え、「おおた高齢者見守りネットワーク(愛称みま~も)」を組織。現在、医療機関や介護事業者、商店街、一般事業者、研究機関など90を超える事業体が加盟する組織にまで発展してきている。

20150611_ヘルスケア・ウェルネス①

↑指導員の話を真剣な眼差しで聞き入る参加者。第2期以降の教室は活気に溢れている

みま~もでは、「みま~もステーション」(商店街の空き店舗を改修した活動拠点)において、地域の高齢者らが気楽に集え、役割や楽しみをもって活動できる場づくりを目指し、様々な教室や講座、食事の提供などを行ってきているが、そうした活動の一つとして’13年度からポールを使ったウオーキング講座(愛称ポールdeウォーク教室)を開始することにした。

これは、従来から取り組んでいた運動教室では、マンパワーなどが整はず、なかなか実施に及ばなかったからである。そこで同センターは、まずは転倒しない身体づくりと楽しく活力ある日常生活を送るための地域での仲間づくりを狙ってこのポールdeウオーク教室を始めることにしたのだった。

65歳以上の高齢者を対象に、週1回(1回1時間30分)・1クール前10回コース
(5~7月、9~11月、1~3月の年間3クール)、定員25名、参加費1回500円、ポール無料貸出で、実施した。指導員は、ポールウォーキング協会の認定指導員などが務めた。参加者は、第1期は13名のスタートとなったが、第2期以降、毎回20名以上が参加する盛況さを見せている。平均年齢は77.2歳だ。もちろん毎回「少し気になる高齢者」も含まれている。

参加者へのアンケート調査によると、10回の教室に参加した結果、7割以上の参加者が腰痛・膝痛の軽減や身体機能の良好な変化を感じ取っていた。また、心理的にも、知り合いが増えたことや運動への興味が高まったことで、7割以上が気持ちが前向きになったと回答していた。

新時代に必須となる自治体マーケティング

活動に際しては、第1期目から木谷ウォーキング研究所、東京医療保健大学、シナノなどさまざまな機関、専門家からの協力を得、木谷ウォーキング研究所は、全日本ノルディック・ウォーク連盟、及び日本ポールウォーキング協会の公認指導者を派遣してその実際の運営にあたった。
徐々に参加者のスキルも上がってきたことから、第3期目からは、参加者のレベルに応じて第3クール目を「ポールdeウォーク大学」とする”進学制”とすることにした。’14年秋には、「学校」4クール、「大学」2クールを行い、延べ79名の参加者を得るまでに育った。

現在では、「自主グループ化」して、活動が自立的に進められていくようにもなってきている。これは、当初から求めていたゴールだった。地域包括ケアシステムの構築の実現において、「重要となるのは、医療や介護の充実ばかりではなく、”早期からの健康づくり”や”介護予防”、それに必要な”基盤の整備”である」(同センター保健師後藤陽子氏)。だとすれば、そうしたことに多くの知識や技術、経験を有するトレーナー・インストラクターを抱える民間のフィットネス事業者こそ、担い手になるにふさわしいと言えよう。

今夏から自治体が提供する場所で、企画コーディネーターや指導者として活躍する人材を養成するシニア向けポールdeウォーク介護予防・総合事業研修会」も始まる予定だ。研修ではコモディティ化、競争激化、超高齢化の時代に対峙するための実践的な知識、指導スキル、企画・コーディネイト力を1日で学ぶことが出来る。受講後はすぐに身近な自治体や関連施設に対し事業企画を提案出来るまでのスキルが身に付く。

フィットネスクラブに関係する人材が、そうした企画コーディネーターや指導者となり、クラブが属する自治体のヘルスケアに関する活動に積極的に参画していくことで、より地域の生活者からの信頼が得られ、やがて自クラブに通う会員を増やすことにもつながっていくのではないか。新時代の経営に、自治体マーケティングは必須と言えよう。