FITNESS BUSINESS

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米国のパーソナルトレーニング最新事情-

2015.08.29 土 オリジナル連載

一人の日本人女性が日本からはるか9千キロ離れたアメリカ西海岸で活躍している。
名前は“奥野亜矢”

ハイパーフィットネスでのクラブ支配人経験後、更なる高みを目指しフィットネスの本場であるアメリカへ渡米。大学でフィットネスビジネスを学びつつ、米国の高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部のグループエクササイズ指導、クラブマネジメント分野など、業界の第一線で職務経験を積んでいる。その奥野氏が感じたリアルなアメリカのフィットネス業界の風景を伝える。

スポーツ大国アメリカにおいて「パーソナルトレーニング」の認知度、浸透度、更には職業としての「パーソナルトレーナー」の社会的地位は、私が日本で得ていた情報や想像を遥かに上回るものであると、実際にアメリカのフィットネスクラブに勤務し実感しています。

私は2年前まで日本のフィットネス業界で働いていました。もちろん日本でも素晴らしいパーソナルトレーナーの方々の活躍により、認知度は向上してきていたと思いますが、やはり普及率は低いと認識しています。フィットネス参加率が人口のわずか3%、その中の更にコアなユーザーのみが利用している、世間一般にはまだまだその価値が伝わっておらず、ビジネスモデルとしても導入期であると感じていました。

都市部ではマイクロジム、専門スタジオというスタイルで認知度も高まっていましたが、地方、また日本全体で見た時に、アスリートではない多くの一般の人々が「月会費同額程度の費用を1時間に支払う価値」はまだ浸透していないと思っていました。また職業としてのパーソナルトレーナーについても「若者の職業」という一般的なイメージで、成功しビジネスを確立されているトレーナーは一握りであると感じていました。
つまり、正直なところ私の中ではビジネスとしてのパーソナルトレーニングには発展途上で、フィットネス参加率の拡大ならずして、これ以上のパーソナルトレーニングの市場拡大は難しいと感じていました。

一方でアメリカではどうか?

例えば、日本でも「ピアノを身につけたい」と思えばピアノの先生に習う。「数学の学力を上げたい」と思ったら、集中的に学べる家庭教師や個別教育を受ける。これと同様に「カラダづくりをしたい」と思えばその専門家であるパーソナルトレーナーをつける、という価値観がとても浸透しています。

personal-training

私の勤務する、カリフォルニア州サンディエゴのThe Sporting Clubは、高級クラブにカテゴライズされる総合型フィットネスクラブです。サンディエゴNo.1のパーソナルトレーナー陣がセールスポイントのトレーニングジム、スタジオ、体育館、プール、スパ、テニスの施設にいます。月会費は約2万円ですが、別売りのパーソナルトレーニングをほとんどの会員が購入する、会費単価、付帯収入ともに非常に高収益なクラブです。パーソナルトレーナーはキャラクターや年齢も様々な15名、ほとんどがクラブの専属トレーナーで、1ヶ月に約100万円以上を売り上げるトレーナーが何人も所属しています。

成功するトレーナーに共通すること

日本とアメリカのフィットネス参加率の違いは、社会保険制度やカルチャーの違いということは間違いないと思います。しかし、成功するトレーナーのポイントは国が変わっても共通するのではないでしょうか。私が考えるポイントを5つ挙げてみます。

1)”本物である”

あるメンバーからトレーニングジムで聞いたストーリーです。「ヨガのクラスを受けた後、ロッカールームを歩いていたら、「もしかして身体の左側に違和感はないですか」とトレーナーと会話が始まった。歩き方から身体の使い方の癖を見抜いたトレーナーに身体の相談をすると、痛みや違和感を緩和するだけでなく、正しい身体の使い方、更に痛みを生まない身体づくりをコーチしてくれている。色々なパーソナルトレーナーを付けたことがあるが、厳しすぎず、自分にとても合っている。」実力がある、本物であるということが一番大切であると思います。

2)”常に情報をアップデートし、勉強をしている”

アメリカはサーティフィケート(卒業証明)がなければ「パーソナルトレーナー」と名乗ることができません。また、トレーニングに関する情報は常にアップデートされており、セミナーへの参加や書物などの学習、またそれをシェアするミーティングが多々あります。「何年も同じことをやっているキャリアなんて意味がない、常に進化し続ける、勉強することに意味がある」と常にフィットネスマネージャーはトレーナー陣を激励しています。

3)”プロ意識が高く、社会人として自立している”

セルフエンプロイー(独立自営)としてのプロ意識が高く、誇りを持っています。一つ一つのセッションに情熱、責任感があり、当然のことながら遅刻や欠勤といった社会的常識が守れない人はいません。

4)”コミュニケーション能力が高い”

エグゼクティブ(高所得者)をクライアントに持つ場合、セッション中の会話内容にも相応の知識レベルが求められます。スポーツマッサージ中の会話をはじめ、あらゆる場面で幅広い知識、情報が必要となります。また運動だけでなく、心理的にコーチングする場合においても高いコミュニケーション能力が必要とされます。

5)”フィットネスが好き”

自己のワークアウトを欠かさず行い、自ら実感しているその素晴らしさを伝えています。また、クラブへの帰属意識、仲間意識が高く、各々が仕事をしている中でもチームワークがあり、自クラブが好きと胸を張って言います。

私が今最も考えるのは「素晴らしい本物のパーソナルトレーナーが増えること」こそが日本でパーソナルトレーニングの普及率を上げることではないかと思います。私が以前考えていた、マーケット、需要優先の考え方ではなく、本物のトレーナーが真価をクライアントに伝えることで、新たな需要、マーケットが生まれると思います。まだまだ身体に慢性的な疾患がある人々が向かうのは、治療院や整骨院という常識が、パーソナルトレーニングが一般的となる日が来ることを望んでいます。

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奥野 亜矢

ロサンゼルス在住。自身の柔道家としてのアスリート生活の経験から、「大好きなスポーツ、フィットネスを通じて多くの人を幸せにしたい!」と志しフィットネス業界へ。
コナミスポーツ、ハイパーフィットネスにてトレーナー、グループエクササイズディレクター、そしてクラブ支配人を経験。”フィットネスの本場 アメリカ”でビジネスキルを磨き、挑戦するため渡米。高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部にてグループエクササイズ指導、クラブマネジメントに携わる。