大手スポーツサプリメントメーカーにて新商品企画、販促企画を経験し、現在はオリジナルサプリメントブランド「BodyFit」を経営。その一方で現役のボディビルダーとして活躍中の中澤 智之氏にスポーツでのパフォーマンスアップに役立つ栄養・食事に関して分かりやすく解説してもらいます。
アスリートのパフォーマンス向上は技術練習だけでは限界がある。
特に技術的に大きな差がない高いレベルの争いにおいて、技術面で差をつけるのは難しく、フィジカル(身体)面の差が成績に影響する。
土台となる強靭な肉体を作るために一生懸命ハードなトレーニングをしても、十分な栄養摂取なしではかえって痩せてしまったり、疲労が残ったりして、十分な結果を得ることは出来ない。
これはアスリートだけに限らず、一般のスポーツをされる方にも共通して言えることである。
我々の身体は今まで食べてきたもので出来ている。
将来の身体はこれから食べるもので出来る。
「舌で食べる」のではなく、身体作りのために「頭で食べる」ことを心掛けよう。
“What’s NUTRITION?”ではスポーツライフをより充実したものにするため、戦うための身体づくりの武器となる「食」についての基本を見直してみたい。
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スポーツでパフォーマンスを上げたいと思ったときに、多くの人が真っ先に行うのは「トレーニング(運動)」だと思う。
これは正しい判断である。パワー・瞬発力・持久力、それぞれ伸ばした能力は異なってもトレーニングにより筋肉を鍛えること、競技ごとの技術を磨くことは必要不可欠である。
しかしこれだけでは筋肉は発達しない。筋肉の発達には「トレーニング(運動)」に加えて、「休養」と「栄養」が必要だからである。(イメージ図)
図:アスリートのパフォーマンス向上に関する基本要素
~筋肉が発達するまでの流れ~
1.「トレーニング(運動)」により筋肉や循環機能へ負荷が掛かり、筋肉が破壊され、多くのエネルギーが消費される。
↓
2.壊れた筋肉を修復するための材料である「栄養」を十分に摂取する
↓
3.「休養」をとることにより、筋肉を元通りに修復させるだけではなく、以前よりも強靭な筋肉へと発達させる(超回復と呼ばれるもの)
この繰り返しにより身体はより強くなっていくのである。
この3要素は相互に関係しており、どれか一つが偏ってしまうとパフォーマンスアップにつながらないばかりか体調を崩してしまう可能性もある。
「疲労が抜けない」「痛みが取れない」「特に意識していないのに体重が減ってしまう」等思い当たるふしがある人はまずは今一度3つのバランスを見直してほしい思う。
栄養と言われてもピンとこない方もいるかと思いますので、簡単な解説を入れると、人間が生きて行く上で必要な栄養素は大まかに「5大栄養素」として分類される。
健康な身体を維持するためにはこれらのバランスが大事であり、どれか一つでも欠けていれば不調の原因となってしまう。
①タンパク質
我々の身体の材料となるもので、筋肉だけでなく骨格、内臓、皮膚、髪の毛等もたんぱく質から作られている。一生懸命運動しても、十分なタンパク質を補給しないと筋肉が発達しないばかりか、細くなってしまうこともあるのだ。
タンパク質が体内で消化されたものを「アミノ酸」と言う。
このアミノ酸は血液に溶け込んだ後、運動により傷ついた筋肉の再生に使われ、もし余った場合はエネルギーとして使われる。 アミノ酸は体内に溜めておくことが出来ないので、血液中に常にアミノ酸がある状態にしなければ最悪筋肉が分解されてしまうのだ。
そのため、タンパク質は小まめに十分な量を摂らないといけない。
■必要量
・体重1kgあたり2g~3g /日
例えば体重70kgのアスリートなら、1日に約140gは摂りたい。
ちなみにこれを食事でまかなおうとすると、卵を約20個、ステーキなら800gも摂らなければならず肉体的にも経済的にも無理がある(サプリメントの活用が必要となる)。
参考:たんぱく質の多い食材
牛肉、豚肉、鶏肉、魚 ・・・ 約20%(100g=20g)
卵 ・・・ 約6~7g/個(全卵)
■摂取タイミング
・毎食:必ずたんぱく質を摂る。
・運動直後(ゴールデンタイム)。
傷ついた筋肉が回復しようとして、たんぱく質を取り込もうとする能力が高まっている状態。
・就寝前
成長ホルモンの分泌が高まっていて身になりやすい状態 。
②炭水化物(糖質)
身体を動かすエネルギーの主役であり、脳が使える唯一のエネルギー(厳密に言うとブドウ糖が枯渇した時はケトン体がエネルギー源として使われる)。
炭水化物が体内で分解されたものを「ブドウ糖」、さらにブドウ糖が結合し筋肉や肝臓に蓄えられたものを「グリコーゲン(ブドウ糖=グルコースが沢山結合したもの)」という。
運動する際、真っ先に使われる物質であり、炭水化物を消費した後に脂肪がエネルギーとして使用されるので、有酸素運動はある程度の時間(20分程度)以上続けないと脂肪が燃えないのだ。
一方、十分に炭水化物を摂らないでいると、脳にとって唯一のエネルギーが枯渇し生命の維持が出来なくなる。その場合、筋肉を分解し、アミノ酸から「糖新生」によりグリコーゲンが作り出され、脳のエネルギーに充てられるため、筋肉が細くなってしまう。
つまり、十分なタンパク質摂取+炭水化物も大切なのだ。
■必要量 体重1kgにつき4~6g(運動量等によって要調整!)
(例)体重70kgのアスリート ⇒ 70kg x 6 = 420g
一食につきごはん2杯(約80g)、果物(約25g)、100%ジュース(約25g)、肉・野菜(約10g)=合計140gを3回摂れば420g満たすことが出来る。
■摂取タイミング
・毎食:朝昼は1日の活力源として多めに摂り、夜は寝るだけなので量は控えめに。
・試合/練習前
3~4時間前 ・・・ 食事
1時間前 ・・・ バナナ,ゼリー
30分前 ・・・ 100%ジュース
炭水化物を摂取し、血液中のブドウ糖が増えることを「血糖値が高くなる」と言う。
人間の身体は血糖値を常に一定に保とうとするため、血糖値が高くなると、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されブドウ糖をエネルギーとして活用する。
しかし、インスリンは余ったブドウ糖と遊離脂肪酸をくっつけて中性脂肪に変え脂肪細胞に取り込んでしまうのだ。
つまり、インスリンとはエネルギーの消費(燃焼)と貯蔵をコントロールするホルモンなのだが、食べ過ぎや運動不足は脂肪を蓄積させる原因となるのだ。
一方、インスリンとは筋肉の元となるアミノ酸のデリバリーを助ける役目もあるため、運動直後低下しているインスリン感受性を高めるため、吸収の早い炭水化物とプロテインやアミノ酸を一緒に摂ることで吸収をよくし、効率よく筋肉の発達を図る方法もある。
③脂質
細胞膜や血液、ホルモンの材料になり、エネルギーにもなる。
タンパク質、炭水化物は1g=4Kcalなのに対し、1g=9kcalと高エネルギー源であるため、摂りすぎは肥満を溜めこむことになるので注意が必要だ。肉の脂身や料理の油分だけでなく、乳製品、調味料等にも気をつけること。商品の成分表を見て、出来る限り脂肪分の低い商品や、ローファット、無脂肪の商品を選ぶことも大切。
■脂肪の種類 脂肪の主成分は中性脂肪だが、この中性脂肪は様々な脂肪酸によって構成されている
大きく分類すると次の2つに分けられる。
飽和脂肪酸 ・・・ 肉や乳製品等動物系の油で、常温で放置しておくと固まる性質を持っている。過剰摂取は身体のコレステロール値を上げて健康に良くない。
不飽和脂肪酸 ・・・ 植物や魚に含まれる油で、固まらない油。血液をサラサラにし、動脈硬化や心疾患予防に良いとされるDHA・EPAを含んでいる(特に鮭・アジ・サンマ・サバ等の青魚類)
④ビタミン
身体の代謝機能をサポートし、調子を整える役目を持っている。
例えばビタミンB群(B1,B2)はエネルギー源の代謝を促進し、ビタミンC,E等は身体の錆びつきを防ぐ抗酸化作用がある。
体内で作ることが出来ないため、食事から摂取する必要があるのだが、アスリートは激しい運動とともに沢山のビタミンを消費している。
食事から必要量をすべて補おうとしても不可能である(例えばビタミンCを1,000mg摂るにはレモンを約50個も食べなければならないのだ)。
さらに農薬や除草剤の多用により、食物中の微量栄養素の量は半世紀前に比べて3分の1程度になっている。
また、「環境ホルモン」「農薬」等有害物質の存在から野菜の栄養が損なわれ、さらに調理で熱を加えたり、水でゆでたりすることにより、微量栄養素は破壊流出してしまうので、大量の野菜を食べてもアスリートが必要とする栄養素は補えないのである。
そのため、アスリートが特に必要とするビタミンB群、C、E等を十分配合されたビタミンサプリメントが有効なのだ。
■摂取タイミング
毎食後 ⇒ビタミンは体内に溜めておけないため、小まめに摂ることで体内に留まる時間を長くすること ができる。
トレーニング後 ⇒回復を早めることができる。トレーニング後にプロテインを飲むとき、一緒にビタミンを飲むのも良い。
参考:主要ビタミンの働き
・ビタミンA… 粘膜の保護、組織の分化、抗酸化作用など。
・ビタミンB群 … 炭水化物、脂肪、たんぱく質が体内で使われるのをサポート。
・ビタミンC … 免疫増強、コラーゲン生成、抗酸化作用など。
・ビタミンE … 酸素の利用効率を上げる、抗酸化作用など。
⑤ミネラル
身体の材料になったり、ビタミン同様に代謝のサポートを行う健康維持に不可欠な微量栄養素。
■身体の材料:カルシウム⇒骨鉄⇒血液
*運動性貧血
激しい運動をすると発汗により鉄分が消費される。さらにバレーボール、バスケットボール、マラソンのような繰り返し足裏に衝撃が加わるスポーツにおいては、血液循環の折り返し地点である足裏の毛細血管の赤血球が破壊され、赤血球が不足することで貧血を起こすのだ(自転車競技や競泳等では比較的少ない)。
運動性貧血防止にレバー、魚介類、野菜、大豆類を食べること!
■身体の働きを調整:
・カルシウム⇒骨を強くする、体液をアルカリに保つ、筋肉の収縮を助ける等。
・マグネシウム⇒クレアチンの合成に関係する、鎮静作用、心臓の収縮を助ける、筋肉の弛緩を促す。カルシウムとマグネシウムの摂取バランスは2:1が理想。
*筋肉がよく攣るアスリートは「マグネシウム不足」が原因!
つまり、筋肉を収縮させるカルシウムの割合が多くなると、筋肉は収縮ばかりで弛緩出来ず攣ってしまうのだ。
カルシウムは比較的食事から摂りやすいため、マグネシウムの多いバナナ、レタス、キャベツ、海藻類を意識して食べるように!
・亜鉛⇒男性ホルモン、インスリン、成長ホルモンのベースとなる。また、免疫増強作用もある。
■摂取タイミング 毎食+就寝前(特に亜鉛、マグネシウム)
まずは自分の生活を見直してみてこれらの5大栄養素を「量」、「質」の2つでしっかり補えているか振り返り、仮に補えていなければ改善する必要がある。
スポーツパフォーマンスの向上のためには上記の5大栄養素をしっかりと摂ることがまずは基本である。
次回は「♯02本当にプロテインは必要か?」をお伝えします。