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2015.10.09 金

インカレ11連覇の礎を築いた 水泳の科学的トレーニングに迫る(前編)

トレーニング

中央大学水泳部は創設94年の歴史を持つが、1990年代に入りメキメキと力をつけ、1994年からインカレ11連覇を果たした。その礎を築いた吉村豊さん。水泳部監督として米国で学んだ科学的トレーニングと、自身がラグビー選手として大切にしてきたチームワークを水泳指導に応用。やがて大学生以上のオリンピック選手も多数輩出するようになり、それまでの水泳選手の「中高生限界説」をも覆した。その科学的トレーニングのアプローチに迫る。

週20時間しか練習できない米国の大学チーム

吉村豊さんがいち早く日本に導入した科学的トレーニングの原型は米国にあった。米国の大学スポーツはシーズン制がとられており、どのスポーツも「全米大学体育協会(NCAA)」によって、練習は週20時間までと決められている。もちろんスイミングも同様で、選手たちは限られた練習時間で最高のパフォーマンスを実現することを目指している。そうした環境で発展したのが科学的トレーニングである。

吉村さんは、1986年に中央大学水泳部監督に就任すると、「根性練習をさせるわけにはいかない」と88年に米国に留学、1年間アーニー・マグリスコ博士のもとで学んだ。同博士は東ドイツから情報を得て乳酸トレーニングをはじめとした科学的知見に基づいたトレーニングを行った科学者であり、スイミングのコーチとしても多くの実績を残していた。吉村さんはそこで得た知見を惜しみなく中央大学の練習に導入。それまでインカレで一度も優勝できなかったチームを、連覇できるチームへと導いた。その要諦についてこう話す。
「トレーニング効果を定量化し、強い選手と比較分析して有意に差がみられる部分に着目すると、勝つために何をすればいいかが明確になり、的確なトレーニングや練習プランが立てられます。映像や測定データを選手にフィードバックすることで、選手自身が課題を理解し、練習内容に納得感が得られるようになるとモチベーションも上がります。

辛い練習にも意味を見いだすことができ、もっとやろう、もっとこうしようという自主性が惹き出されます。さらにチームでそうしたデータに基づく練習方法を共有することで、選手同士も学び合うことができ、選手同士、選手とコーチや監督とも本質的な信頼感が生まれ、チームワークも強化されます。そうしたことが心理面での強さにも繋がり、本番で結果が残せるチームや選手になれるのです」

速く泳ぐには、水中での抵抗を減らし、推進力を高める

吉村さんは、「速く泳ぐうえで目指すべきことはたったの二つ。水中の抵抗力を減らすことと、推進力を高めること」と話す。シンプルだが、それを実現するためには水中運動の特徴を理解することが大切だ。

水中の抵抗力は、主に三つある(図1)。

スイマー④

一つは「形状抵抗」で、進もうとする方向に対して身体を流線型に近づけること、さらにベルヌーイの定理という水中で浮力(揚力)がかかる形状を実現することで、抵抗力を究極的に減らすことができるという。
この形状抵抗を減らす基本が、水泳での理想的な姿勢とされる「ストリームライン」(図2)。完璧なストリームラインを実現しているとされる北島康介選手は、飛び込み後、ターン後のスピードがライバル選手に比べて群を抜いていることも北京オリンピック100m決勝のレース分析から確認できる。形状抵抗が少ないことは、自然と高い推進力に直結する。

スイマー②
二つ目に注意すべきなのが「造波抵抗」。水面に波ができることで抵抗が生まれるため、ストロークや息継ぎなどの水面の動きにも配慮が必要となる。データを分析すると、速い選手のストローク数はその他の選手と変わらない。ストロークが造波抵抗を生むことから1回のストロークの効率を高めることが重要であることがここからも分かる。一方、キックも大きく行うより小さく数多く行うほうが波も最小限に抑えることができ、推進力が得られる。体力も効率的に使えることになる。

三つ目の抵抗力は「摩擦抵抗」で、これは皮膚の産毛などが生み出す抵抗のこと。トレーニングではどうにもできない部分であるが、ゼロコンマ数秒を争う世界では軽視できない抵抗になっている。2009年ローマでの世界水泳で37個の世界新記録が出て、その後禁止された高速水着の機能の一つが、この摩擦抵抗を抑えることで話題を呼んだ。ラバー素材表面に親水機能を付加して、摩擦抵抗を極限まで下げるとともに、ロングスパッツで肌の露出を低くすることで摩擦抵抗を抑えていた。泳力以外の水着素材の商品開発が過度に進むことを危惧して、2010年には国際大会やマスターズ大会での高速水着の着用が禁じられ、スパッツも膝までの丈と定められている。
水中の推進力については、ストロークとキックにおけるフォームやパワーを追求していくことになる。ここでもトップ選手と一般選手の違いを分析すると多くの示唆が得られるという。例えば、陸上で速く走るには歩幅×ピッチの速さがスピードを生むが、水泳の場合、ピッチの速さにあたるストローク数を高めると、造波抵抗が大きくなりスピードアップに必ずしも繋がらない。その分、たとえばクロールではダウンスイープ(入水からキャッチまで腕を前方下にゆっくり伸ばす)での腕の伸展動作で、トップ選手と一般選手の違いが大きいと吉村さんは分析する。

造波抵抗を生まない手の入水から水をとらえて(キャッチ)、前腕と手の向きを正しく後方に向け太腿の位置まで最高のスピードで水を押す(インスイープ〜アップスイープ)ことが推進力を高める鍵となる(図3)。

スイマー③

また、キックにおいても、前述のとおり大きい力強いキックよりも、小さく速いキックのほうが、造波抵抗が少なくかつ高い推進力を生むことができる。さらに、たとえばバタフライでのキックでは1ストロークに2回のキックが行われるが、第2キックを小さくすることだけでも水中での推進力が増すことがデータを解析することで分かってくる。

データと水中映像を合わせて分析することで、各泳法での推進力を高めるポイントが分かるだけでなく、選手各個人の課題が抽出できることになる。中央大学では定期的にスピード測定やパワー測定と水中映像を記録し、そこで得られるデータをフィードバックし、水の抵抗力を少なく、推進力を高めるフォーム改善やパワー向上のトレーニングに活かすことで勝利を確実なものにしてきているのだ。

水泳の科学的トレーニングに迫る(後編)では水中パフォーマンスを上げるための「陸上でのトレーニング」をお届けします。

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