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【NEXT 12月特集】世界に学ぶ保険のしくみとフィットネス "日本"篇

2016.11.25 金 スキルアップ

「運動習慣のある人は、40~85歳にかかる医療費が一人あたり平均153万円少なくなる」2014年に田倉智之教授が発表したこの試算が注目を集め、この医療費の削減効果をもとに、フィットネスクラブに通う人の保険料を割り引く新たな保険の登場が期待された。

近年日本でも民間保険で「健康増進型保険」が出てきている。また、公的医療保険の仕組みへの研究事業もスタートしている。健康の経済価値に詳しい大阪大学の田倉智之教授に、日本の保険のしくみとフィットネスの今後について話を訊いた。

日本でフィットネス行動を後押しする保険が生まれにくかった理由

日本は、世界の中でも最も公的な保険が充実している国と言えます。日本では、すべての国民が国民保険か社会保険に入り、保険証があれば2〜3割の自己負担で受診することが可能です。特に社会保険料の負担は企業との折半で、給与から天引きされるため、多くの人が、月々の保険料の金額や、受診したときの自己負担額があまり気にならない構造があります。

一方欧米では、公的保険が日本ほど充実していないことから、民間保険が発展しており、保険会社同士が競合する環境にある国では、さまざまな保険商品が生み出されています。特に民間保険の市場規模が大きい国では、保険会社が大きな資金を持ち、それを財源にフィットネス行動参加へのインセンティブを提供することで、人々が健康になり、保険会社の保険負担が減り、利益が確保できるという循環が生まれています。

ところが、その制度を日本にも適用できるかというと、下記のようないくつかのハードルがあります。

「みんな公平に」という保険の原則

フィットネスの参加で保険料を割り引くなどのインセンティブを提供する場合、保険加入者がフィットネスに参加できる環境が公平にあることが必要です。近年日本でも小規模ジムが増えて機会は確実に増えていますが、エリアによってはジムに定期的に通える環境がなかったり、収入やライフステージによって、ジムに通うことが難しい人もいます。フィットネス参加にいかに公平な環境がつくれるかが大きな課題となります。

クオリティの担保

本来ジムに通う回数だけでは、健康度の改善を担保できません。ジムの環境や、提供しているクラスや指導内容も、相応のエビデンスに沿っている必要があります。ジムに通う人の医療費が平均153万円少なくなるという試算も、週3回以上、特定のジムに通っている人を対象にしたもので、こうした環境の前提条件が変われば、予測できる医療費の削減額も変わってしまいます。ここにも新たな保険のしくみ創出の難しさがあります。

ビジネス有効性のリスク

運動を継続することで将来もたらされる経済価値を、現在に割り戻して保険料を下げようとする場合、既存商品の収益率を減じることもあります。保険料を割引くことで、保険加入者が増えたり、保険者1人あたりの単価が増えればビジネス的にも有効ですが、この保険料割引に反応する人の需要拡大が読めないうえに、将来の経済メリットを現在の財源で肩代わりするための予算確保が難しいという課題もあります。日本では保険の許認可も厳しく、将来の規制などの変更が予測できません。その他にもフィットネス参加による経済価値が生み出されるまでに関与する変数が非常に多いことも、新たな仕組みづくりにブレーキをかけている現状があります。

日本の「健康増進型保険」 の現状と今後

とはいえ、日本でも新たな保険の仕組みづくりへの試みは様々に推進されています。将来につながる活動として、下記が注目されます。

少額短期保険や生命保険との組み合わせで、民間保険に 「健康増進型保険」が登場

長期的、公的な仕組みづくりにハードルが多い中、民間の少額短期保険や、日本でも多くの人が加入する生命保険とのセットで、フィットネス参加にインセンティブを出す「健康増進型保険」が登場しています。

公的保険への導入を目指した健康行動促進の研究事業

現在経済産業省のもとで、保険者、健診機関、フィットネスクラブ、研究機関などがコンソーシアムを組み、一次二次予防における健康推進の経済価値を分析する研究事業が進められています。人々の行動科学などの知見を活かした健康活動を推進するプログラムを開発し、その効果を検証することで、新たな仕組みが創られていくことが期待されています。

フィットネス関係者による本質的な価値の啓発~浸透

日本では、人々が金銭的な動機による行動変容が促されにくい環境にある分、本質的なフィットネスの価値で行動変容をサポートする必要があります。健康行動を継続する人が増えることで、経済効果が生み出されることは明らかです。

特に今40〜50歳代の健康行動は、子どもたち世代へと受け継がれることになり、将来大きな経済価値の違いを生み出します。その意味でもフィットネス関係者にとっては、運動することの楽しさや、運動が日常生活のパフォーマンスを高めることなど、本質的な運動の価値で、多くの方の行動変容をサポートし、その実績をつくっていくことが大切です。定量的、定性的な実績が、将来の新たな仕組みづくりに大きな役割を果たすことになるはすです。

お話を訊いた方 田倉智之さん
大阪大学大学院医学系 研究科 招聘教授 博士(医学) 修士(工学)

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【記事出典】
月刊NEXT 2016/December No.117 

【企画・構成】
株式会社クラブビジネスジャパン
オンライン事業部フィットネスビジネス編集部:庄子  悟

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