FITNESS BUSINESS

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【NEXT 11月特集】機能改善トレーニング最前線 Vol.1

2016.10.25 火 スキルアップ

ライフキネティック
“脳のファンクショナルトレーニング”

ライフキネティックとは?

ドイツの老舗サッカーチームTSV1860ミュンヘンのトレーナーであった、ホルスト・ルッツ氏が、運動科学者、脳科学者らからの知見を統合して独自に開発した能力開発メソッド。脳を、左右、前後、上下の軸で全8部位に分け、視覚機能とボディコントロールで、8部位すべてが活性化するように構成されている。毎回違うエクササイズを行うことで脳の機能をバランスよく高めることや、脳の8部位を強調させながら全方位的に使うことなど、ファンクショナルトレーニングで身体の機能を高める考え方と共通するコンセプトを持っている。ドイツでの研究で、60分のライフキネティックによりドーパミンの分泌が増えて学習効果が高まり、回復反応(眠りの質)が良くなることが検証されている。また10分プログラムでは、ストレス耐性の向上などメンタルケアへの効果が検証されている。

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>ウェルネスデベロップメントの養成情報

学校教育にも採用されているエビデンスプログラム

ライフキネティックを日本で展開するウェルネスデベロップメントは、これまでもドイツの温泉療法や、気候療法をはじめとした自然療法に学び、日本での施設開発やサービス設計に活かしてきた。同社が開発した施設で2014年から介護予防事業に参入することをきっかけに、ドイツから導入した運動プログラムがこのライフキネティック。ドイツでは、サッカー界でパフォーマンス向上への効果が注目されたことを機に急速に浸透し、医科学的にも認知機能向上の効果検証が進み、現在では公立小学校の授業に採用されるに至っている。このプログラムの機能改善への効果のメカニズムについて、ライフキネティック公認マスタートレーナーの中川慎司さんはこう話す。

「このプログラムの特徴として、視覚機能測定法による視覚機能向上の要素が重視されていることが挙げられます。これまでに日本でも高齢者の健康寿命延伸のために、身体の機能を維持する運動の重要性が認識され、そのためのエクササイズも浸透しましたが、環境に身体を適切に反応させて動かすには、目からの情報が適切に処理されることが重要です。例えば、横断歩道を横切るときに、近づいてくる車までの距離や、車のスピードを正確に認識できてはじめて、適切なタイミングとスピードで横断歩道を渡れるわけでです。視覚機能をしっかり維持すること、そして、脳の各部位をバランス良く活性化できるようにトレーニングを構成していることが、このプログラムの優れた部分です」

ライフキネティックは、ドイツの防衛大学やケルン大学などで多くの効果検証が行われ効果が実証されている。ウェルネスデベロップメントでは、日本でもその効果を最大限に活用できるよう、今までドイツ語でしか受けることのできなかったライフキネティックのトレーナーを日本語で育成し、普及させることを目指している。

同時に、日本での高齢者の認知機能向上プログラムとしての科学的検証も進めることを計画しており、介護予防プログラムとしての有効的な活用も拡大したい考えである。

>ウェルネスデベロップメントの養成情報

ピタゴメソッド
“オタゴエクササイズをピラティスメソッドで行う”

ピタゴメソッドとは?

ニュージーランドのオタゴ大学で高齢者の転倒予防のために開発されたオタゴエクササイズにピラティスの要素を加えたプログラム。ピラティス指導者として後期高齢者の機能改善に関する研究を進める更科枝里さんが2013年に開発し、地方自治体の総合事業などで活用されている。オタゴエクササイズは歩行の動きを分解し、それぞれの動きを練習することで歩行機能を高めるプログラム。国際的に権威のある米国疾病予防センター(CDC)でもその効果が立証されている。ピタゴメソッドは、ここにピラティスの長所である体幹の安定や、呼吸法による効果も得られるように再構成した身体機能回復プログラム。30分のプログラムは、①呼吸法、②体幹安定、③柔軟性、④筋力、⑤バランス機能、⑥認知機能を維持・向上することを目的とし、バーを利用した全身コーディネーションを含めた5パートで構成されている。

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歩行機能改善プログラムにピラティスの長所をプラス

動作解析技術を駆使して、介護予防のエビデンスプログラムとして「ピタゴメソッド」を開発した更科枝里さんは、20年のピラティス歴を持ち、現在筑波大学大学院の博士課程の研究生として、「高齢者の歩行機能と認知機能の数値化」についてオーストラリアのビクトリア大学と共同研究を進めている。歩行機能については、最先端の動作解析技術を用いて評価とトレーニング効果の検証をしている。これまでの研究から、開眼片脚立ちにおいて、自立高齢者と要支援高齢者の間に、急激なスコアの下降が見られることが研究より明らかになり、現在は、開眼片足立ち機能が低下するメカニズムについて研究中だ。

今までの研究では、運動介入前後に、認知機能については、MMSE(総合的認知機能検査)・TMTA(注意遂行機能)などを測定し、詳細な歩行機能との相関を分析する他、精神機能については、GDS(老年うつ尺度)・SOC(首尾一貫感覚-ストレス耐性能力)などを測定している。更に各運動介入時の前後に自律神経機能と気分を測定し、心と身体の総合的な健康について研究している。

そうした知見をもとに、ピタゴメソッドの転倒予防への効果の高さについて、こう説明する。「歩行動作は、ヒールコンタクト(踵着地時)から、 トゥ・オフ(爪先の離地時)を経て、 次のヒールコンタクト時までに、大きく立脚期と遊脚期の2つのフェーズに分けられます。歩行中の転倒を引き起こしやすい2大要因は、つまずきとすべりです。つまずきはミニマム・フット・クリアランスと呼ばれる歩行時の指標(遊脚期中期のつま先が内果付近を越える辺りの床からつま先の距離)と関係し、すべりは、ヒールコンタクト時の地面と脛骨の角度と関係することが明らかになっています。

また、ヒールコンタクト時の膝関節が軽く屈曲することで、大腿部のエキセントリック収縮が床からの衝撃を吸収し、膝への負担を軽減することが、ビクトリア大学の長野放博士との共同研究からも解明されてます。遊脚期に足が後ろから前に振り出され、最大に加速する時の床からのつま先の高さがポイントになるため、足関節を背屈させる前脛骨筋や股関節を屈曲し脚を持ち上げる大腿四頭筋の上部といった筋力、上半身と下半身をつなぐ大腰筋と共に体幹を安定させる深部筋の筋持久力が重要で、頭の位置など姿勢とも関係します。こうした各フェーズでの動きの質を高めることで、転倒しない歩き方を維持することができるのです」

更科さんは、今後もピラティスが医療や介護の分野でも活用されることを目指して、科学的エビデンスを揃えるべく、日本とオーストラリアで研究を続けている。ピラティスの効果として、心理状態を測定する二次元気分尺度から「活性度」「安定度」「快適度」のいずれもが有意に改善したという研究結果も得られている。喪失感の多い高齢者が元気を取り戻すピラティスの心理的効果にも注目している。

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【記事出典】
月刊NEXT 2016/November No.116 

【企画・構成】
株式会社クラブビジネスジャパン
オンライン事業部フィットネスビジネス編集部:庄子  悟

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