成功する小規模目的型ジム・スタジオの経営・運営
2018.09.25 火 オリジナル連載 トレンドサービス ヘルスケア/ウェルネス
―次に、それぞれ理想とするもの、ビジョンがあると思うのですが、まずどのように現在の施設のアイデアが出てきたのか、教えてください。
山本:もともと部活動のチームにトレーナーを派遣したり、トップアスリートのパーソナルトレーニングを担当していたのですが、リハビリやトレーニングの場所がなくて困っていたのです。リハビリは物理療法と運動療法を組み合わせて行うのですが、自前のジムであればそういうことが思う存分やれるなと考えたことがきっかけでした。しかし、スポーツはなかなかお金に直結しにくいので、「経営」について考えたときに出てきたのが介護事業でした。とはいえ、一定レベルのサービスを提供するためのコンテンツづくりや、ケアマネージャーとの関係づくりなどやや時間がかかるのですが、そこまでのレベルに達してしまえば経営基盤がつくれると確信していましたので、なるべく早期に目標を達成しようとスタッフを鼓舞し、介護事業に取り組むことにしたのです。
そのほか、「地域に根差す」ということで、地域の方々に喜んでもらえるように、全世代に向けたパーソナルトレーニングの提供を始めました。―初めて起業するときに、何か気を付けたほうがいいことはありますか?山本:スポーツの世界ではそれなりにチームや選手のフィジカル面、メディカル面をサポートするメソッドをつくってきて、チーム契約数や成果など実績もついてきてはいますが、デイサービスや一般の方へのサービスはまた異なるので、最初の事業コンテンツをつくるまでに時間がかかりました。しかし、そこがある程度出来上がってきているので、いろいろと楽しくなってきています。
―山本さんは大手のクラブで働いた後、アメリカの大学で改めてトレーニングについて学んだと伺いました。
山本:アメリカの大学でトレーナーの資格を取りました。―トレーナーとしての技術や知識はあっても、経営するには新たな知識が必要ということですね。山本:そうです。トレーナーとしては、プロチームや日本代表チームでも活動してきたのですが、フィットネスジム経営者としては初心者ですから。
―ありがとうございます。では増本さん、お願いします。
増本:私はトレーナー出身でもフィットネス業界出身でもありません。この業界に入り13年が経ちましたが、もともとフィットネスクラブをやるつもりはまったくありませんでした。今から15年ほど前は、飲食のフランチャイズチェーンの事業に携わっていたのですが、少子高齢化が急激に進むこれからの世の中を考えたときに、若者相手のビジネスはもうダメだと思ったのです。
当時、団塊の世代といわれる方々は50代後半で、10年、20年もするときっと健康に問題を抱えるようになるだろう、そこにビジネスチャンスがあり、それを解決することは社会的にも価値があると思い、調べているうちにアメリカのカーブスに出会ったのです。アメリカのカーブスはシニアビジネスではなく、健康や肥満を解消するものとして「ダイエットセンター」「肥満解消センター」と捉えられており、まさに絶好調でした。
そのエクササイズプログラムや、「女性だけ」「30分だけ」というコンセプトがとてもいいなと感じましたので、日本で展開する「マスターライセンス」という権利を取得し、スタートしました。私も身体を動かすのが好きで、それまでにもジムに通ったりはしていましたが、フィットネスのトレーナーになろうとか、フィットネスビジネスをやろうなどとは思ったこともありませんでした。
小早川:当社は、出版社が母体です。私自身、10年間ビジネス書の編集者をした後、約13年前に、クロスメディアパブリッシングというビジネス書の出版社を創業しました。さらに、法人向けにマーケティング支援をするクロスメディアマーケティングという会社、語学書の出版社としてクロスメディアランゲージというのを小規模ながら運営しており、実は今でもビジネス書をつくっています。
しかし、ちょうど3、4年ほど前の40歳を過ぎたころに、「こういうの(自己啓発本やビジネススキルの本)、もう十分だな…。今、自分が読みたいものはなんだろう?」と考えるようになったのです。そして、自分と同じように感じている人はどういうことに興味があるかと考えたら、やはり健康だろうと思いました。「会計の知識とかプレゼンテーションがうまくなる方法とか、そんなことよりも健康だ!」「仕事のパフォーマンスを上げるにはコンディショニングが大事だ!」と感じて、健康書をチェックしに書店へ行ったら、健康書コーナーには女性向けの本ばかりで、購入者のデータを見ても、やはり女性と高齢者が多いということがわかったのです。
そこで、現役バリバリで働いている男性層をターゲットに、あえてビジネス書ふうの健康本をつくったらおもしろいのではないかと「ビジネスライフ」というカテゴリーをつくったら、結構ヒットしまして。それを受けて、次は知識だけじゃなくて体験できる場所もあったらいいねと考えていたときに、ちょうど当社のオフィスの上階が空いたので、「うまくいかなければ、セミナールームにすればいいね」などという気持ちでジムを始めることにしたのです。社内では、「また社長が何か始めたぞ」みたいな感じでしたね(笑)。
―皆さん、トレーナーをやっていたとかフランチャイズをやっていたとか、また編集者だったとか、やはりそれまでのキャリアを活かしていますね。とくに小早川さんのように編集者というのは、本の“帯”の言葉を書いたりタイトルを付けるなどで訓練されているので、インサイトをとらえることに長けているのではないでしょうか。
今、フィットネス業界に関して、一般生活者に一番拾われているキーワードって、実際「疲労回復」なのではないかと思うときがあります。どうでしょう?
小早川:自分をターゲットとして、自分が満足いくようなプログラムをスタッフとも相談したところ、企画会議で「疲労回復」や「ZERO GYM」というワードが出てきたのです。メディアの人間なので、メディアへのウケ方もわかっていますから、話題につながったのかもしれません。
なお、当社にはフィットネス経験者がいませんので、広告代理店やデザイン会社出身者などがキャッチコピーやデザイン、ジムの内装などすべてを考えました。
―次に増本さんですが、実際にアメリカでカーブスは体験されたのですか?
増本:はい。お店で体験というわけではないのですが、カーブスのエクササイズを何度も行ってみて、これだったらビジネスにできると確信しました。アメリカでは、都会から田舎まで、100軒以上のカーブスを周りました。女性専用なので本当は入れないのですが、田舎の施設だとお願いすれば「わざわざ日本から来たの。じゃあ5分だけなら」ということで入れてくれるところがあったのです。それで入ったら1時間とかいたりして(笑)。
―ほかにも複数の会社が権利に手を挙げていたなかで、増本さんが選ばれた理由として「あなたはよく見てくれていて、カーブスの特徴をよくわかっている」と言われたと聞きました。そうですか?
増本:施設を見るだけでなく、お客さまやインストラクターにもお話を聞きました。そうするなかで、絶対にやりたいと思った一番のことは、社会貢献ですね。我々が日本で目指している「高齢化社会の問題解決」は、彼らにとっては「肥満問題の解決」にあたります。人の健康に貢献しようという理念であったり、カーブスの文化、そういうものに惹かれました。その思いを創業者に話したところ、「いろいろな国の経営者が自分の国でやりたいといってくる。皆、ビジネスをよく研究してプレゼンテーションをしてくるけど、カルチャーを理解してやりたいといってきた経営者は初めてだ」と言われました。
伊藤:当社がこの小型クラブを始めたきっかけは大きく3つあります。1つ目は、それまでのフィットネス業界には、成果と価格のバランスが両立しているクラブが少ないとずっと思っていたことがあります。身体に対しての明確な効果を提供できる施設は、どうしても高額になってしまう。一方で、安くなればなるほど指導の質は下がっていって、それなりの効果しか得られない。この金額と品質が比例している状況を打破しなければと思ったのです。お客さまからすれば、できるだけリーズナブルな価格で身体を変えたいというのが本音であるはずなのに。
また、お客さまがフィットネス業界に求めるニーズには、「痩せたい、シェイプアップしたい」「筋肉をつけたい」「整形外科的な疾患改善」「内科的な疾患改善」の主に4つあると考えているのですが、それに対する対応法が不足していることも理由でした。これらはシェイプアップの「S」、筋肉の「M」、内科的疾患と整形外科的な疾患ということで、社内では“S・M・内・外”と呼んでいるのですが、それに対してクラブやトレーナー側には、評価、運動・栄養・疲労というアプローチがあります。
例えば、縦軸にお客さまのニーズを4つ置き、横軸にクラブ側の対応法4つを置くと、4×4で16マスできます。痩せる、筋肉をつけるということに対しての運動部分、栄養部分については「プロテインを飲みましょう」などの対応がありますが、それ以外のマスを埋める対応策がないのですね。こういう状況を変えていくためにも、お客さまが1万円くらいの金額で、きちんと成果が得られる、身体が変わる、健康になるものをつくりたいと考えたことが、1つのきっかけでした。
2つ目は、私たちが運営しているジム・スタジオ型クラブのなかには、2,000名以上の会員を有し、会員数もキャパシティに近く、収益が安定した施設があります。しかし、退会率は年2~3%あり、年間にしたら何百名というお客さまが辞めている状況が素直に喜べませんでした。自分たちは、その方々の受け皿になりえなかった。では、続けられなかった方にどう続けてもらうのか。
今、運営している施設には、フィットネスクラブで続かなかった方や、身体に痛みなどを抱えている方がたくさん来てくれるのですが、その部分に、よりフォーカスした施設をつくりたいと考えたことが、2つ目の理由です。
3つ目は、フィットネス業界を見渡したときに、トレーナーが活きるフィットネスクラブが少ないのではないかと感じたことがあります。トレーナーを目指した方というのは、本来、自分のもっているものを使って目の前にいる方を健康にしてやりがいを感じて…という方が多いと思うのですが、そのような、彼らがもっているものを最大限に活かして、かつお客さまに喜んでもらえる環境というのが少ないのではないかと思いました。そこで、トレーナーが活きる環境で、かつトレーナーがお客さまと生涯寄り添いながら健康づくりを支援できるかたちを考え、施設をダウンサイジングしました。―経営的にはどうでしょうか?
伊藤:会員数は1クラブ250 ~ 300名ほどです。もうすぐ2年目を迎えるクラブは、ただ今入会予約待ちという状況になっています。初期投資としては1,500万円で成り立つことをイメージしています。これはトレーナーが独立することを考えたときの成立要件として、ということですね。今、総合クラブで働いている方で、独立を考えている方がいたときに、選択肢としてはおそらく、マンションの一室などを借りて、パーソナルトレーニングジムをやるのが近道かと思うのですが、高額だからお客さまは継続しづらいし、そうなるとトレーナーは回数券をセールスし続けなければならず、そのような心理的ストレスで苦しむ方が多いように思います。そこで、安定的に月会費として売り上げをいただきながら、お客さまとの関係性も構築できる方法を考えることにしました。
ちなみに、1クラブの男女比は、8:2くらいで女性が多く、大体40 ~ 70代が中心となっています。