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論より証拠  -その3 エビデンスからムーブメントを起こす(後編)

2015.08.15 土 オリジナル連載 ヘルスケア/ウェルネス

ハーバード公衆衛生大学院博士課程に在籍する傍ら、米国大手広告代理店マッキャンワールドグループ・ヘルスケア部門にて、戦略プランナーとして活躍する日本人女性がいる。名前は”林英恵”。
本連載では健康に対する考え方、エビデンスに基づくアプローチ方法を彼女自身のユニークな経験談も含め解説していく。
【バックナンバー】
論より証拠 -序章
論より証拠 -その1 エビデンスとは
論より証拠 -その2 文系の私が科学の世界に入って驚いたこと
論より証拠 -特別篇- 運動・スポーツ環境における日本とアメリカの違い
論より証拠 -特別篇- スポーツ産業に携わる経営者や指導者にとっての”エビデンス”の重要性
論より証拠 -特別篇- 運動やスポーツ産業の経営者・指導者に求められる仕組み・ビジョン

前編ではアメリカにおけるヨガブームを例に、エビデンスの確立が普及拡大に与える影響をご紹介しました。一方、後編では、一般に広まりつつあったもののエビデンスで結果が出なかったことにより下火になっていった例を紹介します。

数年前、アメリカでは、Ginkgo (ギンコ)というイチョウの葉から作られたサプリメントが流行りました。その後、多くの研究がなされましたが、結果的にはっきりしたエビデンスが得られませんでした。もちろん、エビデンスの有無と一般における人気に関して証明できるようなものはないため、確実なものとしていうのは難しいのですが、専門家たちの見方では、エビデンスが確立できないことが広まった後、Ginkgoの一般における人気も低くなったと言われています。

gingko

↑参考イメージ

アメリカでは、国立補完・代替医療センター(NCCAM)が、エビデンスの出たリサーチに関しては定期的にメディアと連絡を取り、リリースを流しているため、メディア等の報道に影響された消費者の購買活動に影響を与えた可能性は否定できないと説明しています。

健康分野で新しいムーブメントを起こす場合、きちんとしたエビデンスの確立とその積み重ねといった地道な活動がとても重要です。それは、特定の人たちだけが興味を持っていたものを、より幅広い層に訴えかけるツールになるためです。エビデンスが確立されることで、ヨガや瞑想は、東洋医学やスピリチュアルな思想等に関心があった人たちのコミュニティから「健康一般」に興味がある人、そして、健康保持や集中力の維持、ストレスの解消を重視するビジネス分野の人たちに一気に広まりました。

エビデンスなしでメディアへの露出や急ぎすぎたモデル事業等を展開した結果、エビデンスがないことを追及され、逆に批判にさらされて展開が苦しくなった分野もいくつもあります。

前回の鎌田さんのインタビューにもありましたが、ムーブメントを起こし、市場を広げるためには、ビジネスや実務家、そして研究者たちのコラボレーションがとても大切なのです。

<<前編を見る

>>>Write by Hana Hayashi

林 英恵

パブリックヘルス研究者/広告代理店戦略プランナー

1979年千葉県生まれ。早稲田大学社会科学部を経て、ボストン大学教育大学院及びハーバード公衆衛生大学院修士課程修了。現在同大学院博士課程在籍。専門は行動科学及び社会疫学。広告代理店マッキャンワールドグループニューヨーク本社でマッキャングローバルヘルス アソシエイトディレクターとして勤務。 国内外の企業、自治体、国際機関などの健康づくりに関する研究や企画の実行・評価を行なっている。夢は、ホリスティックな健康のアプローチで、一人でも多くの人が与えられた命を全うできるような社会(パブリックヘルスの理想郷)を世界各地につくること。料理(自然食)とヨガ、両祖父母との昼寝が大好き。著書に『それでもあきらめない ハーバードが私に教えてくれたこと』(あさ出版)。また、『命の格差は止められるか ハーバード日本人教授の、世界が注目する授業』(小学館)をプロデュース。