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  • 日本のフィットネスクラブ産業史

年表 産業史1(『クラブマネジメント誌』 通巻第33号記事から転載) 産業史2(『フィットネスビジネス誌』 通巻第5号記事から転載)

日本のフィットネスクラブ産業史(本誌通巻33号記事より転載)

以前本誌既刊号(『クラブマネジメント』通巻第33号)に「日本のフィットネスクラブ産業史」と題する記事を書かせていただいたことがある。この記事は既存のクラブ関係者に止まらず、新規参入組や市場関係者等多くの方々に関心をお持ちいただいた。記事の執筆から丸2年が経つが、この間当業界はかつてないほどの変化を経験している。今後も暫く「再編期」は続くだろうが、編集部はこのあたりでもう一度産業史をまとめておきたいと考えた。バブル崩壊以降、とりわけこの数年間の動きと今後向かうであろう方向を中心にまとめてみた。尚、この記事の抄訳は『IHRSA Global Reports 2003』にも掲載される予定である。

  日本のクラブ業界は1985年から89年まで1年間におよそ200クラブが新規出店するという空前のフィットネスクラブブームに湧いたが、91年のバブル経済の崩壊と相前後して低迷期に入った。だが、94年後半になると徐々に業績を回復させるクラブが出始め、新規出店数も再び上向き始めた。再成長の主因は主に適切な立地選定、施設上のボトルネックの解消、施設・サービスに対応した値頃な料金の設定・変更、開発・運営の効率化にあった。繁盛したクラブはさらに、プログラムやサービスの拡充と一層のローコスト化という一見相矛盾する策を同時に打ちながら、積極的に広告宣伝、営業活動を行って会員数をぐんと伸ばし、利益率も高めていった。こうして2000年までクラブ市場は毎年およそ1.5%の伸びで成長を続けた。しかしこのところ12年は市場規模成長率が再び横ばい〜若干のマイナスとなってしまっている。時間・空間を限定したいくつかの会員種別の投入等により一時的に集客を進めたものの、それによりクラブの雰囲気が変わってしまい、退会率他の各指標が悪化する方向へと向かってしまった。一部のクラブは今こうしたことを反省し、より精緻なマスカスタマイゼーションを行い、顧客満足度を高めるとともに、客単価を高めるべく質を重視した経営・運営を進めようとしているが、今のところまだその成果ははっきりとは出ていない。とはいえ、日本経済全体が低迷する中で、クラブ業界は健闘を見せる数少ないサービス業種の1つとなっている。背景には、急速な高齢化と疾病率の上昇、医療費の自己負担割合の増加などから、主に中高年層の健康志向が高まってきたことがある。総会員に占める40歳以上の会員の比率は徐々に増えていて、現在はおよそ50%となっている。また中高年層は利用回数も多く、クラブの利用率が2530%に達しているクラブも出始めている。よい印象をクラブに持つ人々、クラブを積極的に活用してみようと思う人々が少しずつ増えてきているのである。
  2002年末時点の市場規模(単体のスイミング施設を除く)は、2,973億円(フィットネスビジネス編集部推定)である。過去5年間は、表1のとおりに推移している。先に記した通り、2000年から現在にかけては成長が止まっているが、現在既存大手・中小各社が急ピッチで業績不振店のスクラップビルドや既存老朽店のリノベーションに取り組んでいること、またベンチャーも新たな業態の開発に果敢にチャレンジしていること、新規出店(業態転換、継承後再開、移転新設を含む)もこれまで同様年間4060軒ができると予測されること、さらに今後PFI(公共のフィットネス施設を民間クラブ経営企業が開発・運営する形態)の動きが活発化してくるだろうことなどから、調整期を経た後、業界は再び成長へ向かうものと予想される。

表1 市場規模の推移
1998 1999 2000 2001 2002
売上高(億円) 2,945 2,989 3,034 3,034 2,973
伸び率(%) 1.6 1.5 1.5 0 -2
・『特定サービス産業実態調査報告書』、『特定サービス産業動態統計月報』のデータをもとにフィットネスビジネス編集部が推定。
・上記にはスイミング単体施設の売上高を含めていない。クラブ内のスクール(成人・子供)売上高は含めている。また若干ではあるがボクシングなどの売上高を含めている。


  これまで日本の市場は大手チェーンを中心に成長してきている。特に大手4社が他社クラブ部門をM&A後再建しての出店や自社の新規出店により売上高を大きく伸ばしている。現在売上高上位4社のシェアは約5割を占める。 今後も大手チェーンが中小チェーンを吸収したり、新規出店を加速する動きは強まる。大手チェーンの施設は温浴施設などを加えて大型化(延床面積1,000〜1,200坪程度)する傾向がある。繁盛店であれば、年間1〜2億円の経常利益が得られる。たいていはテナント出店で初期投資を抑えているため、投資効率がよい。
  中小・ベンチャーでも勢いのある企業はある。中堅企業で好調なのはメガロス(親会社は野村不動産)、リーヴ・スポーツ(親会社は三菱地所)、オージースポーツ(親会社は大阪ガス)である。いずれも大手のクラブと同程度か、それ以上の集客力を持つ店舗を各社がこの2〜3年の間に数施設ずつ開発して急成長している。また、ベンチャー企業ではフィットネスマネジメント(地方中核都市に「レフコ」を展開)、ハイパーフィットネス(マーケティング力を武器に2タイプのクラブを展開)、スィンク(「ゴールドジム」を展開)、ワークアウトワールド・ジャパン(ジム・スタジオ型を展開)、ジョイフィット(15分100円の時間料金制クラブを展開)などの成長が期待されている。
  日本では、首都圏・近畿圏に総クラブ数1,873軒(2002年末時点)のうち、およそ4割のクラブが集中している。現在も立地としてはこうしたエリアが魅力的だが、資金力や与信力の違いから大手が出店することが多く、中小・ベンチャーもしくは独立系のスイミングスクールのオーナーなどは地方中核都市のロードサイドに出店することが多くなっている。
  日本のクラブは一部のクラブを除いてターゲットを絞ったり、ユニークなコンセプトを持ったりといったクラブづくりをしておらず、大手も中小も似たクラブをつくっている。ジム・プール・スタジオの3種を揃えて一般的な生活者にターゲットするクラブが9割を占める。ある意味、これは最近の業界の低調ぶりと合わせて考えると従来型のビジネスモデルがほころび始めていることを意味する。需要創造や満足度向上を実現する新たなビジネスモデル、より顧客ニーズに合った業態が求められている。
  ここ数年のトレンドとしてはまず、グループエクササイズの充実と営業時間の延長が挙げられる。前者については特に短時間(15〜30分)のクラスが増加し、バリエーションも広がっている。(1週間に200クラス以上提供しているクラブもあり、提供クラス数の多さは世界各国の中では最も多いと思われる)後者については、夜遅くまで営業するクラブが増えてきている。欧米のように朝早くから営業しようというクラブはまだあまり見られない。携帯電話やPCを活用したマーケティングや会員サービスも徐々に取り入れられるようになってきている。
  また、日本は少子化が進んでいるが、スイミングスクールのシステムが出来上がっているため、このシステムをテニスなど他のスポーツ種目などにも応用してスクールのバリエーションを広げることで、幼児・小学生の会員の減少を食い止めようとしている。
  資金調達は現在株式公開している2社以外のほとんどが間接金融に頼っている。例外としてスィンクがVCを、スポーツプレックスジャパンとNASがファンドを活用している。だが、これら各社の評価はまだ定まっていない。有能な経営者が出れば、資金やノウハウを提供するベンチャーキャピタル、ファンドももっと出てくるだろう。数年以内に数社が株式公開を予定しているが、資金供給源としては、現状ではVCやファンドの方が効果的だろう。
  1〜2店舗しか経営していない中小の独立系企業の中で収益力が弱っている企業は、銀行の貸し渋り、貸し剥がしに苦しんでいる現状がある。
  外資系企業の進出については、単独で行ってくることは考えにくいが日本のクラブビジネスに精通した若く有能な経営者に大胆に権限を委託して進出するならば、成長できる可能性は大きい。日本では「ブランド」だけでは通用しない。逆に日本企業の海外進出だが、現時点では一部企業がアジア地区に1〜2店舗進出している程度で、それ以外はほとんど見られない。これは、多くの経営者が資源を事情のあまり分からない他国に投入するよりも、国内に集中させた方が効率的であり、リスクが少ないと考えているからである。日本のクラブ市場は参加率が2〜3%と低く、クラブ数も少ないため、出店余地も十分残っている。既存店についてもハード・ソフトを刷新することで成長できるところは多い。新しい業態の開発にも期待がかけられる。景気低迷が長引いているとはいえ、人口構造的、社会的にフォローの要因が多いため、クラブ側の努力次第では、まだ十分成長していけるものと思われる。
「調整期」が終わる2005年末くらいからは再びプラス成長するだろう。野村証券株式会社金融研究所のアナリスト斎藤正人氏も「フィットネスクラブ市場は様々な価格かつ業態のクラブが出現してくれば、中長期的に拡大する可能性が大きいだろう。特に高齢化の進展により健康意識を持つ中高年層が増えていることが背景にあることが大きい」と語っている。



※この後、本誌では大手4社(コナミスポーツ、セントラルスポーツ、ディックルネサンス、ティップネス)の経営状況と将来計画と続きますが、こちらについては本誌をご購読ください。