NEXT893
12/68

「スキャモンの発育曲線」「ゴールデンエイジ」は本当か 日本の子どもたちの体力や運動能力はいかにすれば向上するのか。言葉を変えれば、子どもたちの体力・運動能力はどのように向上していくのか。 そうした問題意識から子どもたちの発育と各種運動能力の発達の関連性について研究を進めているのが、JATI-SATIで八戸学院大学准教授の三島隆章さんである。三島さんは子どもたちの体力問題について、まずこう疑問を投げかける。 「子どもたちの体力低下が課題視される中、子どもたちの体力・運動能力を向上させようという取り組みや指導サービスが増えてきています。ここで指導者たちがよく引き合いに出すのが、『スキャモンの発育曲線』や『ゴールデンエイジ』の概念です。私はあるスポーツチームの体力・運動能力の測定を依頼されたことをきっかけに、まず疑問に思ったのが、これらの概念の根拠でした。『スキャモンの発育曲線』は、1930年代にスキャモンが発表した身体の発育に関するグラフです。スキャモンの発育曲線は幼児から青年までの脳や筋肉等身体の様々な器官の重量を測定して、重さの変化を成長曲線としてプロットしたものですが、身体の諸器官の重量の変化は、身体の機能の変化を直接反映しているわけではありません。さらには近年、スキャモンが示した曲線についても、元のデータを用いて改めて統計処理を行うとスキャモンの示したような曲線が得られないとする研究者もいます。また『ゴールデンエイジ』は、日本サッカー協会の教本に紹介されて広まった概念ですが、ゴールデンエイジの根拠についても乏しい感を拭い去ることはできません。そこで、約7年前から、現代の子どもたちの体力・運動能力の発達の様相を検証すべく、データの収集と分析を始めました」「即座の習得」は8歳頃から? 三島さんは、これまでのべ約7,000人の子どもの測定を行い、様々な知見を学会などで発表してきているが、ここでは、2010年に学会で発表した『ジュニアスポーツ選手における身体的発育発達の特徴に関する検討』におけるいくつかの示唆について紹介したい。 2010年に学会で発表した研究は、全国各地でスポーツチームに所属し、定期的にスポーツ活動を行っている7歳~15歳の男女814人に対して行ったもの。体型については身長や体重など、体力・運動能力については、体育館でも測定できる測定種目の中でも、スピード、アジリティ、瞬発力などを測定できる6種目について計測を行った。その結果について、三島さんはこう解説する。「これまでの理論では、9~12歳が『ゴールデンエイジ』とされ、動作の習得が最も効率的になされる時期とされていました。ですが、測定結果を見ると、サイドステップやアジリティなどでは、7~8歳で既に発達のピークを迎え、20mダッシュでは8・5歳頃と12歳頃という2回、発達のピークがあることが分かります。これは、20mダッシュでは8・5歳頃では身体の使い方を習得し、12歳頃では筋力が高まることによって走るスピードが向上したと推測されます。『スキャモンの発育曲線』や『ゴールデンエイジ』の概念に基づくと、9~12歳頃に動作の習得による体力・運動能力の発達のピークを迎えてもよさそうですが、実際にはもっと下の年齢に動作の習得などがなされているようです。とするならば、『即座の習得』と言われるゴールデンエイジは、実際には8歳頃から該当していることを、この研究結果は示唆しているのではないでしょうか」 小学校低学年の運動指導者を手厚くすることが求められる 前述した学会発表の結果も含む多数の研究結果をもとに、三島さんは子どもの体力・運動能力向上のカギを握るのは小学校低学年にあると推測し、幼少期から小学校低学年のトレーニングを重視することを指導者たちに薦めている。 「これまでの理論に基づいた指導方針では、幼少期やプレゴールデンエイジと呼ばれる8歳以前の子どもたちには、遊びやゲームなど楽しく行えて、様々な運動に触れることを優先しているケースが多いと思います。ですが、この時期は動きやスキル習得にも効果的な時期とも考えられるので、スポーツにも通じる動作などを習得できる指導も提供したいものです。小学生などが所属するジュニアスポーツチームなどでも、優れた指導者は高学年以上につく場合が多いですが、低学年にこそ優れた指導者がつく必要性があるのではないでしょうか。また、低学年で効果的に子どもの体力低下が問題視されはじめてから30年。その要因や改善に向けた研究や実験、取り組みが各方面で行われている。トレーニングの専門家から見た課題の再定義と、それに対してフィットネス・トレーニング関係者にとって何ができるのかについて、提言を紹介する。トレーニング専門家が斬る!子どもの体力問題小学校低学年のトレーニングが、体力・運動能力向上の鍵を握る八戸学院大学准教授 三島隆章さんゴールデンエイジの概念スキャモンの発達曲線リンパ系脳の可塑性プレゴールデンエイジポストゴールデンエイジゴールデンエイジ一般系生殖系神経系神経系の発達筋肉、骨格系、動作習得のレディネス51015100%205101520(歳)(歳)成熟期の発育量を100とした場合の各部の発達の割合0112August,2014 www.fitnessjob.jp

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer9以上が必要です