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精度の測定器を使って、スポーツ科学の分野に様々な知見を提供してきた。ここに新たなICT測定機器による測定機会が加わることで、測定とトレーニングが一体化していくと長谷川さんは言う。 「これまでは測定は主にトレーニングの成果を見るものと位置づけられ、測定結果を見ながらトレーニングメニューなどを見直すことに活用されてきました。この測定データがリアルタイムに複数の人が共有できるようになることで、その場でメニューを修正したり、モチベーションを得ることが可能になります。また、これまで測定の多くが、静的なもの、部分的なものが中心だったのが、動的な、実際のパフォーマンスに近い形での測定が可能になることで、トレーニングの計画や修正の精度が格段に高められることに繋がるのです」 例えば、「走るスピードを高める」目的でトレーニングをする場合、これまでは、筋力、スピード、パワー、バランスなど、様々な要素の状況を個別に測定し、向上させるためのトレーニングメニューを組む方法が一般的だった。だが、「走るスピードを高める」と言っても、陸上競技で100m走を速く走りたい場合と、サッカーやバスケットなどで相手を引き離すための数メートルのスピードを高めたい場合とでは、必要となるトレーニングも違う。同じ目的のトレーニングでも、個人差もあれば日々の体調も違う。ICTの進化は、こうした違いにきめ細かく対応することをも可能にする。 「5〜10m程度のダッシュ力を正確に測定するうえで、これまでは『光電管』という高価で設置が面倒な機器を用いるのが一般的でした。これに対してICTが搭載された「ウィッティ(WITTI)」という機器は簡単なゲートを設置するだけで、その記録がワイヤレスで手元のモニターに取り込まれ、アップロードされたデータはパソコンで確認・分析・共有できます。そのデータが蓄積されることで、日による違いはもとより、その日の1本1本のダッシュのスピード推移などもモニタリングが可能です。これにより、疲労度や回復力などの測定もでき、狙うトレーニング効果を得るための強度設定やインターバルを設定することも可能になるわけです」 さらに短い3〜5mの走りを分析するには「オプトジャンプ」という機器を用いることで、一歩一歩の足の接地スピードや、一歩ごとのストライドの長さ、左右差なども詳細に測定できる。さらに、「ジムアウェア」という機器を装着してウェイトトレーニングを行うと、発揮したスピードや筋力、パワーがリアルタイムでiPhoneのアプリに送信され、同時に撮影したビデオ映像と自動的にリンクさせながら、いつでも選手のパフォーマンスをチェックできる。こうしたデータが得られることで、測定自体が効果的なトレーニングを生んでいくことになるわけだ。パフォーマンス分析ができるトレーナーが求められる こうした測定機器の開発は世界的に進められており、そのアドバンテージを日本のトレーニング界が享受するためには、ICTリテラシーを持ち、パフォーマンスができるトレーナーの育成が急務だと長谷川さんは提唱する。そして、こうした測定器がトレーニング現場で活用されることで、データが集積され、ケーススタディが増えることになり、日本のスポーツ科学がより本質的なものへと進化していくと期待を寄せる。 「日本のスポーツ界ではこれまで測定器にもトレーニングにも、あまり高額最新テクノロジーによるパフォーマンス分析がトレーニングを変える!情報通信技術(ICT)が変えるトレーニング環境 進化を続けるテクノロジーがスポーツパフォーマンス分析にも活かされるようになってきている。それにより、トレーニングにおける測定(モニタリング)の位置づけが大きく変わろうとしている。 トレーニング科学に詳しい龍谷大学教授でJATI理事の長谷川裕さんは、2013年の大きな動向として、この測定(モニタリング)機器の進化がトレーニングを変えていくと予測する。長谷川さんはこう話す。 「測定は、これまでも、トレーニングの前後に行われ、その効果を見るうえで欠かせないものでした。この測定に昨今の情報通信技術(ICT)が生かされることで、測定の位置づけが『一定期間のトレーニング効果を見るもの』から『リアルタイムで状態をモニタリングするもの』に大きく変化しようとしています。さらに、ICTの進化により機器が安価でコンパクトになり、どこでも精度の高い分析が手軽に行えるようになってきています。精度の高い情報が増えることは、トレーニングの質も飛躍的に高められることに繋がります。恵まれた環境にいるアスリートはもちろん、広く一般生活者や学生アスリートでも、そうした質の高いトレーニングが行える環境が整いつつあるのです」測定(モニタリング)がトレーニングに入り込む 家庭での体重計から、ファンクショナルトレーニングでの「SOAP」に至るまで、これまでも測定は多くの人々のトレーニングに重要な指針とモチベーションを提供してきた。また、トップアスリートたちは、非常に高い長谷川裕さんHiroshi HasegawaJATI理事/上級トレーニング指導者、龍谷大学経営学部スポーツサイエンスコース教授、NPO日本トレーニング指導者協会理事、一般社団法人スポーツパフォーマンス分析協会理事長、エスアンドシー株式会社代表取締役。最先端のスポーツ科学に裏付けられたデータやトレーニングのノウハウを提供することで、戦略的なトレーニング実践を提唱。トレーニングの科学と現場を繋ぐ取り組みを進めている。長谷川裕さんの動向予測なお金をかけることが難しかったと思いますが、今後は、高性能でコンパクトな測定機器が数万円から数十万円で手に入るようになります。チーム単位、トレーナー単位で十分に導入可能な環境になります。トレーナーとして、こうした測定機を使いこなすことで、提供できるトレーニングの価値を大きく高められる時代に確実に向かっているのです。また、こうしたトレーニング現場のデータが集まり、現場での仮説検証が繰り返しやすくなることで、スポーツ科学がぐんと現場に近づいた実践的なものになる。そうした科学的知見をトレーナー同士が共有することで、さらにトレーナーとしての力量を高めることができるのです。ICTの進化は、トレーナーの仕事や価値の変化をももたらすものとなるでしょう」TrainerFebruary,2013 www.fitnessjob.jp11

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