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庭教師」の存在を知った。2003年ごろのことである。当時も知人を通じて子どもの水泳指導を行っていた小倉さんは、周囲からのバックアップもあり、起業を決意した。「自分の得意分野である水泳を通じて、悩み困っている人たちを笑顔に変えたい。そのことは、一人のスポーツ人として課された役目」。そう確信していた。「しかし、あくまでも経験から憶測して判断したもので、ビジネスとしてうまくいく具体的なデータを把握していたわけではありません。根拠のない自信で事業を開始したのです」 そう笑って当時を振り返る。 自宅マンションの1室に電話、FAX、コピー機を置き、2004年5月にwebページを設置。神奈川県内の富裕層の多い地域向けに、折込みチラシを打った。その後すぐに電話がかかってきて「幸先がいい」と喜んだのも束の間、それは友人からの激励だった。その電話を切ると、いくら待っても電話は鳴らない。やることがないまま時間だけが過ぎ、次第に不安と焦りが募っていった。「それ以上プロモーションにかける費用はありませんでしたから、待つしかありませんでした。自分には伝える才能がないのだと落ち込みましたね」 そうして約2ヶ月が過ぎたころ、やっと電話が鳴った。「そのときは本当に嬉しかった。でもそれ以上に、自分の負う責任の重さを実感しました。プロとしてお金をいただく責任感とともに子どもたちに単に水泳のスキルを教えるだけではなく、苦手意識を克服するチャレンジ精神、そして、“やればできる”という達成感や自信をもたせてあげたかったのです。そのような創業当時の想いから、当社の企業理念“水泳を通じて幸せを提供する”を掲げています」 その後は紆余曲折がありつつも、比較的順調に進んでいった。クライアントのことを第一に考え、真剣に向き合って教えていたところ、あっという間に口コミが広まっていったのだ。 事務所は茅ヶ崎に構えていたが、神奈川県内だけでなく東京、伊豆などへも指導に出向いた。次第に指導範囲が広がり、生徒も増えていくと小倉さん一人では指導しきれなくなり、ライフセービング部で水泳に長けた後輩に声をかけて協力を得た。そして、組織が大きくなり需要もつかめてきた2007年、株式会社アクアとして法人登記した。「このころはは毎日2時間ほどの睡眠時間で働いていました。それでも理念に向かって進んでいる感覚があったので少しも苦になりませんでした。教えることも楽しかったし、組織を機能させるための仕組みをつくっていくことも楽しかったです」 設立当初は、水泳だけでなく体育全般の指導を行っていたが、1年経つころには水泳に軸を絞っていた。インストラクターの教育内容やシステムを体系化することが必要だと考えたためである。 指導環境を整えていくうえで行ったことが、インストラクターのセグメントである。それまで日本ではインストラクターをランク付けすることはタブー視されていた。しかし、個別のお客さまのニーズに、より的確に対応していくためにはインストラクターをセグメントすることは必要不可欠だと判断したのだ。「今、子どもの習い事や家庭環境は多岐にわたっています。子どもの生活環境に時間的制約が生じているなか、質の高い指導環境や時間節約ツールが求められているということは自然なことでしょう。個人に合った指導内容を提供することは、時代背景にマッチしていると考えられます」 お客さまに喜んでいただくために、同社がもっとも力を入れているのがインストラクターの教育・育成。指導にあたって優先順位をどこに置くのかを体系化して、細かいことまで教育している。「弊社のサービスを通じてお客さまが成長するお手伝いをするのはもちろんのこと、所属しているインストラクターも成長できる環境づくりに力を注いでいます。インストラクターとのコミュニケーションをきちんととることにより、アクアの指導の価値観、理念を共有するよう社内環境の充実化も推進しています」 現場からの叩き上げである小倉さんは、インストラクターの気持ちがよくわかる。「今後はインストラクターの存在意義や重要性を唱えるとともにインストラクターとしてのQOLを提案していきたい」と話す。 小倉さんは、昨年の東日本大震災を機に、考え方や自身の気持ちに変化が起こったという。「これまでは、お客さま満足度の向上やスタッフの雇用拡大を探求し、事業運営に力を注いでいました。しかし、震災を通じて、どんな試練があろうとも未来ある子どもたちに夢や希望を与える場所を提供し続けることが、私の役割だと感じました。そのような想いから昨年の夏には被災地の子どもたちに水泳指導を行いました。久しぶりに水に入る子どもたちの笑顔は、未来を明るくさせる予感や希望をもたせてくれました。その“笑顔”ためにも、今後も子どもたちに夢や希望を提供し続けていく担い手として活動を進めていく責任を痛感しました」 今、アクアは東京に加えて名古屋、大阪にも支店を設置。東京とはマーケットの異なる支店でどのように展開していくかが課題となる。 今後、ますます少子化が進んでいくことは明白だが、小倉さんは「生徒が減ることは心配していません。むしろ増えていくでしょう」と言う。しっかりとニーズを見極めた同社のサービスが、成長の何よりの裏付けになっているようだ。子どもたち一人ひとりと向き合って指導。目標を達成したときの笑顔を見ることが、小倉さんの最高の喜び03会社を形成社員教育を体系化04震災を機に原点回帰今後の成長に期待クロールで25親子で練習でき、楽しく効果的にクロールを身につけられるようにと、水泳キャップシェア日本No.1のフットマーク株式会社と共同開発した“世界初の育泳キット・クロールで25”。泳ぐための姿勢をつくる水着、水泳指導の理論と方法がつまったDVD、テキストのセット。Product所在地 (本社) 〒220-0023 神奈川県横浜市西区平沼1-1-12-305 Tel 045-290-0550 (名古屋)〒460-0002 愛知県名古屋市中区丸の内3-7-26ACAビル5F Tel 052-265-7631 (大阪) 〒541-0046 大阪府大阪市中央区平野町2-2-12 Tel 06-7636-0477webサイト http://suiei.jp/設立 2007年2月(創業2005年5月)資本金 380万円組織 65名収支構造 【売上】スイミング指導、物販 【経費】人件費、教育・育成費、その他July,2012 www.fitnessjob.jp25Organization Data株式会社アクア

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