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大リーグで活躍するダルビッシュ有選手やソフトバンク多村選手、ジャイアンツ澤村選手、アルペンスキーヤーの皆川健太郎選手をはじめ、錚々たる選手たち60名あまりがトレーニングに通うドームアスリートハウス。2009年に4人の選手との契約でオープンした同施設は、現在ではプロ野球、プロゴルフ、UFC、競輪、ビーチバレー、車いすバスケットなど幅広い種目で活躍するアスリートをサポートしている。ここでジェネラルマネジャーを務める友岡和彦さんは、前職は大リーグチームのヘッドストレングスコーチ。フロリダ大学卒業後、インターンとして働き始めて以来約10年間に関わった選手は500名以上。その豊かな経験を通じて培われた指導力と人間力が今、多くのアスリートを惹きつけている。 友岡さんの今の活躍へのきっかけは、1通の手紙だった。大学でアスレティックトレーナー科を専攻し、卒業を前に就職先を探すために友岡さんが起こした行動は、プロ野球全球団に手紙を書くこと。日本のプロ野球と、アメリカの大リーグチーム全球団に、自身のプロフィールと熱い思いを込めた手紙を送った。だが、新卒日本人アスレティックトレーナーにそう簡単にチャンスは訪れない。諦めかけたある日、1通の手紙が届いた。フロリダに本拠地を置く大リーグチーム、マーリンズのインターンの仕事だった。ちょうど一つポストが空いたという。無給ながらもその仕事にチャンスをかけた。 この小さな一歩が次々と扉を開いていった。半年後には、同チームでアシスタントストレングスコーチとなり、これが、モントリオールエクスポでのヘッド・ストレングス&コンディショニングコーチの仕事を手繰り寄せた。その後ワシントンナショナルズで同じくヘッドコーチを務めた。この頃、知人の紹介で、ドームのウェブサイトでコラムの連載をスタートさせる。そして、アスレティックトレーナーとして10年間が過ぎる頃、所属チームの体制が変わるタイミングと、日本でドームアスリートハウスの構想が現実化させるタイミングが重なった。そうして、友岡さんは日本での新たなチャンスにかけるべく帰国して現職についたのだ。 ドームアスリートハウスでの仕事は、冒頭に書いたように契約選手4人とのスタートだったが、その後選手たちが集まるのに時間はかからなかった。選手同士のクチコミはもちろん、大リーグ選手が日本の球団と契約することが増える中、その評判は日本のプロ野球界にも広がった。さらにドームの商品を愛用する選手たちとの接点も増え、契約料は高額ながら、契約選手は年々右肩上がりで増えていった。トレーナーも当初は友岡さん1人だったが、現在では8人が活動するまでになっている。友岡さんは、アスリートをサポートするトレーナーとして大切にしていることを次のように話す。 「トレーナーに最も必要とされるのは『人間力』で、トップアスリートに近づくほど、それが必要になると感じます。大リーグチームでこれを実感しました。トップに行くほど人並外れた才能や身体を持っていますが、大リーグには世界からそうした選手が集まってきています。育った環境も違えば価値観も違う。英才教育を受けた選手より、むしろ貧しい国で野畑を駆け回り、便利なものは何一つない生活をしてきた人が多い。相当なハングリー精神も持ち合わせていますから、気も強い。自分の力で這い上がってきた選手は、チームの一トレーナーの言うことなんてそう簡単に聞いてくれません。そこで選手とどのようにコミュニケーションをとり、どのようにモチベーションを持って貰うかについて、本当に鍛えられました。その経験で選手が成功し続けられるポイントも見えてきました。成功する選手は、自分なりの考えを持って継続して努力する。一方で、成功が長続きしない人はその反対。才能で数年間は勝負できますが、その後思うように結果が出せなくなり、その時に気づいても、もう遅い。この違いが分かってから、トレーナーとして、トレーニングを通じて、成功できる考え方や行動習慣を伝えたいと思うようになりました。トレーニングをやらされるのではなく、自ら考えて、努力し続けられるようにサポートする。それによって、選手たちの人生も変えられる。今後は高校生のチームや若い選手たちのサポートも積極的にしていきたいと考えています。トレーニングを通じて日本のスポーツ界や日本の社会を支える若者の成長に貢献できればと考えています」ドームアスリートハウスでは『フィジカル』『リカバリー』『ニュートリション』『スキル』の4つの柱で専門家と連携をとりながら選手たちをトータルにサポートしています。特に選手にとってのオフシーズンの利用が多く、トレーニングや選手の状態については、チーム所属のトレーナーとも情報共有しながら進めています。トレーニングの内容は、近年日本でも注目されているファンクショナルトレーニングやピラティスなども採り入れていますが、基本的なフリーウェイトでのトレーニングも重視しています。私自身は年3回米国で開催されるファンクショナルトレーニングサミットに必ず参加して最新動向を確認し、日本での選手たちの環境づくりに活かしています。将来はフロリダにあるプロスポーツ選手養成所と知られるIMGのような若手育成の学校のような事業にも携わりたいと考えています。友岡和彦さんドームアスリートハウスジェネラルマネジャー/パフォーマンスディレクター立教大学卒・フロリダ大学スポーツ科学科卒。2002年、MLBモントリオールエクスポズにて日本人初となるヘッド・ストレングス&コンディショニングコーチに就任。その後、MLBワシントンナショナルズの同職を経て、2009年より現職。NATA-ATC、NSCA-CSCS、JATI-ATI1枚の手紙がチャンスの扉を開いたトップアスリートのトレーニングの現場友岡さんに訊く01CASE Case Study アスリートを支える仕事に就くということ14July,2012 www.fitnessjob.jp

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