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【キッズ・ジュニア向け プログラム& ツール】キッズ・ジュニア世代の現状と課題

2017.09.25 月 トレンドサービス

フィットネスクラブにおいて、キッズ・ジュニア向けスクールは会員数が伸びている分野であり、欠かせない事業のひとつだ。現在のフィットネスクラブでは、子どもの習い事第1位であるスイミングスクールはもちろん、第2位英語、身体の基礎をつくるプログラムなど幅広いスクールをお客さまに提供している。本特集では、こうしたキッズ・ジュニア向けのプログラムやツールを紹介する。

キッズ・ジュニア世代の現状と課題

30年以上に及びプロからジュニアユースまで幅広い年代への指導経験を持ち、東欧スポーツ科学を中心とした育成強化システムを専門に研究を行ってきた小俣氏。現在は石原塾アドバイザー、いわきスポーツアスレチックアカデミーアドバイザー、avex athlete clubジュニアユースアスリート養成など、多くのスクール事業のプログラム開発、運営に携わっている。今回、同氏に日本及び世界のキッズ・ジュニア世代の運動指導環境の現状と課題を訊いた。

今回お話しを伺った方:石原塾アドバイザー 小俣よしのぶ氏

【石原塾】
http://ishiharajyuku.com/

【いわきスポーツアスレチックアカデミー】
https://iwakifc.com/

世界スケールで子どもの体力が低下

社会環境の変化によって運動機会が減少し、1985年をピークに子どもの体力は低下傾向である。近年では、体力の低下により、同じ姿勢でいられない、怪我をしやすいなどの問題が浮上している。また、運動する子どもとしない子どもの二極化の進行が大きな課題となっている。しかし、こうした子どもの体力低下は日本だけに限ったことではない。米国やドイツ、オランダなどの欧州諸国では日本よりも状況はさらに深刻である。

「欧米の場合には、子どもたちだけで屋外で遊ばせていると誘拐などの事件にまきこまれる危険性があるため、保護者が帯同していなければ、近くに公園があっても自由に運動させたり、遊ばせることをしません。また、米国では地域によって、教育予算削減のために学校の授業から体育科目をなくす自治体もあります。ドイツの場合には、以前から学校では基礎体育しか行いませんし、オランダでは体育さえありません。

こうした背景もあり、欧米各国では日本よりも早くスポーツ教室やキッズ向けのスクール事業、パーソナル指導がビジネス化されてきました。とくにドイツ人の場合には身体が大きい子どもが多いため、成長期に身体を巧みに動かす能力や運動習慣を身に付けなければ、成人したときに自身の大きな身体を思い通りに動かすことが非常に困難となります」(小俣氏)

こうした状況を改善するため、今後、ドイツでは本来オリンピック選手の強化を目的であるドイツオリンピックスポーツ連盟(DOSB)が子どもたちの体力や運動能力向上などの施策を主体的に行うという話も出ているという。

首都圏と地方のキッズスクールの環境には大きな差

日本においても、一昔前のように近所の公園や空き地などで遊ぶ子どもの姿を見ることが少なくなってきた。背景には子どもたちが遊べる公園や広場などが年々減少していることや、子どもたちが遊びに使える時間が少なくなってきているという理由が考えられる。

とくに後者については、幼少期から塾や習い事に通う子どもが多く、屋外で子ども同士が自由に走り周ったり、身体を動かして遊ぶ機会が減少してきている。一方、9~12歳の神経系の量がほぼ成人レベルまで発育する期間、その時期を所謂「ゴールデンエイジ」 と称し、子どもの身体能力を総合的に高めるため、キッズ向けスクールや教室に積極的に通わせる親も増えており、幼少期の運動環境については、今後さらに二極化の流れが拡大していくだろう。この点について小俣氏は次のように述べる。

「首都圏、とくに東京ではこうした幼少期のうちに運動能力を伸ばすための運動教室やスクールの環境が充実しており、小さいうちから子どもを運動スクールに通わせる親御さんも増えているように感じています。しかし、地方ではこうした運動教室、キッズ向けスクールの数が少ないうえに、遊ぶ場所自体が年々減少しているため、より子どもの運動能力の低下が懸念されます。実際に私がアドバイザーとして携わっている、いわきスポーツアスレチックアカデミーがある福島県いわき市でも、運動教室の数が少ないことに加え、過疎化や東日本大震災の影響から屋外で遊ぶ子どもが少なくなってきているようです」

こうした環境の改善に向け、いわきFCを運営する株式会社いわきスポーツクラブは、いわき市内の子どもをいわきFCパークに集めて、無償の運動教室を開催している。今後、多くの子どもたちが遊びながら体力をつけ、遊びのなかから楽しく運動スキルや身体操作性を身に付けられ、スポーツを楽しめる人になってもらいたいとしている。

将来的には、地域のフィットネスクラブ、ジムによるスクール数の拡大と併せ、こうした地域や自治体を巻き込んでの環境づくりというものも非常に重要になってくることだろう。

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運動能力のベースとなるのは 「走る」「跳ぶ」

少子化が進むなかにおいても、キッズ・ジュニア向けのスクール事業が好調な伸びを続けているフィットネスクラブも少なくない。要因としてはテニスやサッカー、野球などメジャースポーツにおける日本の競技力の向上もあるが、少子化であるが故に子ども一人ひとりの運動能力の差が明確に見えやすくなってきており、少しでも運動能力を伸ばしてあげたいと考える親のニーズが増えていることもあるだろう。昨今は、こうしたニーズに対して「コオーディネーショントレーニング」プログラムの提供を強みとして打ち出すスクールが増えている。

コオーディネーショントレーニングとは20世紀後半に旧東ドイツにおいて理論体系化された「身体操作性」や「巧みさ」と呼ばれる能力を鍛錬する育成方法である。目や筋肉内にある感覚器(センサー)などから送られてきた身体の状態や、身体を取り巻く周辺の情報を脳が的確に判断・処理し、運動に必要な身体部位に情報を送り返し、運動課題を遂行するために神経や関連器官を刺激し鍛える。主に以下の7つの能力を鍛えるものとされている。

リズム能力:リズム感を育て、 動きのタイミングなどを向上させる。

バランス能力:バランスを保ち、 崩れた態勢を素早く立て直す。

変換能力:状況の変化をとらえて、動きを素早く切り替える。

反応能力:合図や声などに反応して、素早く対応する。

連結能力:身体全体をスムーズに動かす。

定位能力:動いているものや空中にあるものと、自分の位置関係を把握する。

識別能力:スポーツ用具を上手に操作する(ボール・床・バックボードなど)。または、ある動作を最小の努力で達成する。

一般的に最も神経系が発育する時期は5~12歳ころまでといわれており、5~8歳までは「プレゴールデンエイジ」、8~12歳までを「ゴールデンエイジ」と呼び、この時期の子どもに対して神経系の発達につながるトレーニングを実践することが将来の運動能力を高める上でも非常に有効とされている。

従来であれば、幼少期の“遊び”を通じて『末端の受容器が情報を集める力』 や集めた情報のフィードバックとしての『力の調整力』などの能力が自然と培われてきた。しかし、現代では、遊びを通じて状況を体験することが少なくなってきており、足元の状態や、自分の身体の動きなど、自分の目で確認できない身体の動きを感覚から感じることができない子どもたちも少なくない。そうした子どもたちにとっては、コオーディネーショントレーニングによって、末端受容器が情報を収集する力を伸ばすことが大事になる。

一方、小俣氏はこうした神経系を鍛えるためのコオーディネーショントレーニングのみに特化した運動プログラムを提供することに対して疑問を投げかける。

「私自身、これまで幅広くキッズ・ジュニア世代の運動指導に携わってきましたが、最近は力(筋力や力発揮能力)が弱い子どもが多いように感じます。例えば、まともにかけっこをすることができない、体力がないため走りはじめてもすぐに疲れてしまう、筋力がなく鉄棒にぶら下がることや腕立て伏せの姿勢ができないなど、運動をするうえで最低限の基礎体力のレベルが昔と比べて低下してきているように思います。

こうしたなかで、神経系を鍛えるためのコオーディネーショントレーニングだけを行っても、運動スキルや身体操作性能力の向上につなげることはできません。本来、コオーディネーションとは力発揮をコントロールするものなのですが、90年代にコオーディネーショントレーニングが日本で初めて紹介された際に、非常に新奇的であったため動きだけを真似したトレーニング方法のみが広まり、肝心の理論が置き去りにされてしまったことも影響しています。

まずは、『走る』『跳ぶ』という、すべての運動のベースとなる力をつけることがとても重要です。『走る』という運動はさまざまな身体活動や多く のスポーツに共通する基本運動ですが、それ以上に注目していることは、走ることで社交性や積極性などの非認知スキルが高められることです。子どもたちが鬼ごっこをする様子を見ているとよくわかるのですが、鬼が追いかけたくなるのは、すばしっこい、足の速い子どもです。反対に立ち止まっている子のことはまったく追いかけようとしないのです。つまり鬼ごっこという遊びを楽しむためには、足が速くなる必要があるため、子どもは主体的、本能的により速く走るための練習や方法を自ら見つけ出そうとするのです。

そもそも、コオーディネーショントレーニングとは、前述の鬼ごっこの例のように『みんなと鬼ごっこを楽しみたい=速く走りたい・タッチをかわすために素早い身のこなしができるようになりたい』といった目的が明確になり、はじめて効果を発揮するものです。明確な目的がない状態で、いくらコオーディネーショントレーニングを行ってもあまり意味はないうえに、狙った効果を得ることは難しくなります」(小俣氏)

加えて、プログラム提供時には子どもの成長特性を見極めることも非常に重要になるという。

「日本の体育やスポーツでは、学年ごとに同じことをしますが、本来、生物学的年齢は個別に異なります。また、子どもによって、脳、骨、臓器などそれぞれの成長スピードも違います。しかし、日本では早熟傾向で高い専門性をもった子どもたちが注目される傾向が強く、保護者や指導者も、幼少期から特定の競技種目で上達することを子どもたちに求めてしまいがちです。昔のように“遊び”の機会があれば、小学校までに基本的な身体の使い方を自然に習得できていましたが、現代ではその時期からいきない専門的な競技種目の指導を受けることとなるため、状況対応力が低くなったり、偏った体力や運動能力になりがちで、早い段階でスポーツに伸び悩む、怪我や障害を負ってしまう子どもたちが少なくありません。

もし早熟傾向や身体形態、体力レベルが暦年齢平均(生まれてから経た年数のこと。例:生まれて10年経ったら10歳)と比較して高い場合には、身体操作性のフィジカルトレーニングや、コオーディネーショントレーニングを行う。逆に晩熟傾向の場合は、できることとできないことを把握して指導する。身体形態や体力レベル暦年齢平均との比較で低い場合は体力全般の養成をするなど、一人ひとりの子どもの発育・発達の特徴に合わせたプログラム提供を行うことが重要です」(小俣氏)

成長差が大きくでる幼少期だけに、一人ひとりに合わせよりパーソナライズした指導や育成が求められるわけだ。小俣氏がアドバイザーを務める、いわきスポーツアスレチックアカデミーでは同プログラムの導入を予定している。

地域に寄り添った運動環境の提供が求められる

欧州、ドイツでは学校体育に基礎体育のカリキュラムしか存在せず、学校の部活動も存在しない。スポーツや運動については地域のクラブチームが運営する総合型のスポーツクラブで行うのが一般的だ。分かりやすい譬えとして、日本でも有名なサッカーチーム「バイエルン・ミュンヘン」を例にあげよう。

同クラブはサッカーチームの運営のみを行っているわけではなく、それ以外にもバスケットボールチームやそのほかのスポーツチームや総合型のスポーツクラブの運営などの事業も展開している。ドイツの子どもたちは幼少期からこうしたクラブが運営する施設にて運動やスポーツに親しみ、その中で能力が優れた子どもたちが各スポーツのジュニア代表として選抜されていく仕組みとなっている。

つまり、サッカーにまったく興味がない子どもであっても、「バイエルン・ミュンヘン」 が提供する施設でスポーツや運動を行うことで、成人となってからも同クラブに対して継続的に親しみがもてるようになる。ドイツでは19世紀ごろからこうしたエコシステムが出来上がっており、ビジネスモデルとして確立している。

日本においても、前出の株式会社いわきスポーツクラブが自治体と連携し、地域全体で子どもの基礎体力、運動能力向上に向けた取り組みをはじめている。こうした取り組みはフィットネス業界でキッズ向けのスクール事業を展開する企業も多いに参考とすべき点が多いのはないだろうか。

フィットネスクラブは収益のほとんどが会費収入であるため、利用者には小さいうちからクラブのブランドに対して愛着をもちつづけてもらうことが、将来的なLTV(生涯顧客価値)の向上にもつながってくるのではないだろうか。もちろんスクールや教室で提供されるプログラムも非常に重要ではあるが、キッズ向けのスクール事業を展開するうえでは、こうしたエコシステムの構築を想定した事業展開が求められるであろう。

今回お話しを伺った方:石原塾アドバイザー 小俣よしのぶ氏

【石原塾】
http://ishiharajyuku.com/

【いわきスポーツアスレチックアカデミー】
https://iwakifc.com/