FITNESS BUSINESS

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【NEXT 12月特集】世界から見る日本のフィットネス "トレーニング市場"篇

2015.11.25 水 スキルアップ

フィットネス業界が成熟期から、次のステージへの変革期に入っている。これまで世界のトレンドに影響されながら成長してきた日本のフィットネス業界。日本独自のフィットネス文化が息づく中、近年ではインストラクター・トレーナーがダイレクトに世界最先端の情報やプログラムをいち早く日本に紹介し始めている。今回は、日本と世界のフィットネス・トレーニング市場を良く知る関係者に世界的視点から見た日本のフィットネスの現状と今後について訊いた。

“世界最先端のトレーニング動向から見る日本のトレーニング市場”

現在世界的に広がりを見せているファンクショナルトレーニング。その生みの親とされるギャリー・グレイ氏が運営する教育機関グレイインスティチュートのメンターシップ受講をきっかけに、世界のトップトレーナーとのネットワークを築いてきているトラビス・ジョンソンさん。世界最先端のトレーニングに関する動向に精通するトラビスさんに、日本のトレーニング市場がどう見えているのか訊いた。

トレーニングの“常識”は常に塗り替えられている


トラビス・ジョンソンさんは、カリフォルニア生まれ、シアトル育ち。自身がケガに悩んだ経験から既存のリハビリやコンディショニングに疑問を抱き、1994年から運動指導に関わってきている。東京大学大学院での研究を経て日本でのトレーナー歴は15年。マイクロジム「シナジー」での指導に加え、現在中心に行っているのは2013年に立ち上げた世界最先端の動きに関する情報が得られる情報サイト「キネティコス」の運営だ。その他にも、DVRTの代理店としてトレーナーの育成や、2016年にはバイオフォースという心拍変動に着目したトレーニングシステムの提供も本格的に開始する。「世界の本質的な情報や商品を日本に紹介すること」を一貫して進めてきている。

そのトラビスさんが、日本のトレーニング業界の動向について危惧するのが、世界と日本のトレーニング情報にタイムラグがあることだ。日本で“常識”とされていることが、既に世界では常識でなくなっている例は多々あると話す。

たとえば、近年日本でも注目が高まっている「筋膜リリース」。世界では、数年前に「筋膜リリースギアで筋膜がほぐれたり、伸びたりすることはない」ということが実証されており、筋膜にアプローチするエクササイズは「筋膜コンディショニング」といった言葉で表現されることが多くなっている。また、日本でトレーナーを目指す人が最も初期の段階で勉強する応急処置の「RICE」でさえ、既に数年前に「RICE」を提唱した医師本人が、「あれは間違いでした。お詫びします」と表明し、現在は、RICEを使用するのであれば、間欠的に使用するべき、ということが常識となっているという。

「キネティコスの情報は、主に世界のトップトレーナーたちのブログやホームページでの投稿やビデオを、それぞれの方に承諾をいただき、引用・翻訳して制作しています。筋膜リリースやRICEのように、調査研究により常識が塗り替えられる情報はもちろん、パフォーマンスアップへのアプローチについては、トップトレーナーの間でも見解が相反することも多々あります。そうした対立する見解もキネティコスでは敢えて両方掲載しています」

「世界では、こうした様々な情報から、目の前のクライアントに照らし合わせて、トレーナー自身が最善な策を考え、指導を提供して、結果を検証することが日々なされています。日本では翻訳された限られた情報から学んでいるケースも多く、考える選択肢も少なくなりがちです。セミナーなどでも、ギアの使い方やプログラム、指導スキル系の内容が先行してしまい、トレーナーとして本質的な考え方に触れたり、提供するトレーニングについて疑問に感じることが少ない環境にあるように見えます。世界的にみると、ある情報に対して批判的・懐疑的に見る傾向が強いのがイギリス人に多いように感じます。その違った視点から学べることもたくさんあります。キネティコスでは、こうした世界で繰り広げられているディスカッションにも触れていただき、身体の原理原則への理解を深めていただきたいと強く感じています」

トレーナーの力量は二極化へ


トラビスさんは、キネティコスの運営を通じて日本の多くのトレーナーとコミュニケーションしてきているが、世界でも日本でもトレーナーの二極化が始まっていると話す。

「キネティコスには、無料会員と有料会員がありますが、有料会員で登録している方々は、みな既に知識も実績も豊富な方。各種セミナーでもよく顔を拝見するトレーナーの方々です。世界でもそうですが、勉強している一握りのトレーナーは、どんどん実績をつけて、情報を発信するから仕事も集まるようになる。一方、自己投資を惜しんでいると、トレーナーとしての知識も実績もつけられないために、情報を発信できず、思うように仕事も得られないために、自己投資ができないという負のサイクルに入ってしまいます。トレーニングやフィットネスの最新情報はほとんどが英語です。海外に出ないまでも、国内でトレーナーとして確かな情報を見抜き、力をつけていくには英語力は必須ともいえます。キネティコスは英語の原文と日本語の対訳で掲載していますが、日本のトレーナーの英語の勉強にも活用していただくことも企図しているのです」

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また、二極化という点では、原理原則から考えられるトレーナーと、トレーニングのスキルばかりを追求してしまうトレーナーに二分され始めていることも指摘する。トレーナーとしてクライアントを見て、最適なプログラミングや指導ができるようになるには、「なぜ(WHY)」「どのように(HOW)」「何を(WHAT)」の順番で考えることが大切とされている。スキルに流されるトレーナーは、往々にして、「何を(WHAT)」に留まってしまう。原理原則から考えられるトレーナーに近づく第一歩として、トラビスさんはこうアドバイスする。

「まずは今日指導した内容(WHAT)について、なぜそれをしたのか (WHY)を自分で説明してみる練習をするといいと思います。または、クライアントが目的としていたトレーニング効果が得られないとき、それがなぜかを自分に説明してみる。それが説明できない時は、身体の仕組みやクライアントの状況への理解が不十分なとき。その説明ができるまで情報の手がかりを辿っていくと、一つの論点について、たくさんの見解があることも確認できます。そこで、その中の一つの見解を鵜のみにするのではなく、他の見解の正しい部分も見つけてみる。そうていくうちに、知識や視野も広がり、原理原則に近づけるようになります。私もまだまだ勉強中です。トレーニングには一つの答えがないからこそ、学びつづけられる楽しさがあるし、学びを共有し合える仲間がいることは本当に幸せです。学び続けるトレーナーという仕事の醍醐味も、多くの方々と共有していきたいです」

インタビュー: トラビス・ジョンソンさん
キネティコス取締役、グレイインスティチュートFAFS/ CSCS/CFSCリハビリ、傷害予防、パフォーマンス向上まで運動の連続体を幅白くカバーする指導者。1994年、シアトルの空手道場にてコーチとしての指導を始め、2000年東京大学大学院にて生物学の研究に携わる。2011年キネティコス代表取締役の谷佳織さんと共同でマイクロジム 「シナジー」、2013年キネティコスをオープンし、現在に至る。

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【記事出典】
月刊NEXT 2016/December No.105 

【企画・構成】
株式会社クラブビジネスジャパン
オンライン事業部フィットネスビジネス編集部:庄子  悟