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【NEXT 6月特集】世界で活躍する日本人トレーナー  

2017.06.16 金 スキルアップ

#6 ACミランメディカルトレーナー 遠藤友則さん

【ACミラン】
イタリア・ミラノをホームタウンとする、イタリアプロリーグに加盟するプロサッカークラブ。FIFAクラブワールドカップをはじめとした国際タイトルや、セリアAなど国内タイトルともに数多く持つ。日本でも良く知られる天才サッカー選手ロナウドや、日本でも活躍したマッサーロもかつて所属。現在では日本を代表する本田圭介選手が所属している。

遠藤友則さんは、ACミラン在籍通算19年。サッカー界の世界のスター選手たちに愛されたメディカルトレーナーとして知られている。自身の活動が紹介されている『ミランの手』や、ACミラントレーナーとしての著書『一流の逆境力』などの書籍でも、その活躍を知ることができる。

その遠藤さんがACミランで長年チームからも選手からも厚い信頼を得続けているのは、人の縁に導かれた場所で、自分ができることに集中してきたからに他ならない。遠藤さんは、高校時代から将来を期待されたサッカー選手だったが、高校3年生の国体で靭帯断裂を経験。

大学でもサッカー部でキャプテンを務めたが、既にトレーナーになることを目指して在学中に鍼灸師の専門学校に通いはじめた。大学卒業後は、専門学校に通いながら、高校時代のリハビリでお世話になったスポーツドクターの鍋島整形外科の鍋島和夫先生のもとで経験を積み、ドクターと連携しながら選手のリハビリからコンディショニングを手がけた。

その後、Jリーグ創設とともに、清水エスパルスのヘッドトレーナーとなり7年間を過ごすことになる。JFLの経験がないエスパルスで、医療部の責任者に遠藤さんを抜擢したのは、小学校時代からサッカーでお世話になった堀田哲爾先生。エスパルス発起人だった。

ACミランへも、人の縁に導かれた。エスパルス退職後、自身の治療院開業準備中に、以前エスパルスで選手として活躍し、ACミランのフロントスタッフとなっていたダニエル・マッサーロさんからの紹介で、育成チームのトレーナーというポジションで勉強できることになる。

遠藤トレーナーのキャリアステップ


当初1年間の予定でACミラン育成部のトレーナーの仕事についたものの、3年目にはトップチームでの人手が足りなくなったということで、急遽、トップチームのメディカルトレーナーとして一流選手たちの治療やリハビリ、リカバリーを手伝うことになった。

だが、遠藤さんが持っていた鍼灸師も、柔道整復師も日本では国家資格であるものの、イタリアでは医療従事者資格として認められているものではない。遠藤さんはイタリアにわたって10年ほどは言葉の問題や、資格上の問題、そして東洋人という文化の違いからトレーナーの仕事といっても下積み的な仕事が多かったという。

それでも、真摯に仕事に向き合う姿勢や、他のトレーナーたちとのテクニックの違いから、徐々に選手たちの信頼を集めるようになり、やがてチームの中心選手の治療やリハビリにも携わるようになっていった。遠藤さんがメディカルトレーナーとして存在感を現しはじめたタイミングで、ACミランは、第二の黄金期へ。その立役者の一人として遠藤さんのトレーナーとしての手腕も注目されるようになっていく。

当時の状況について遠藤さんはこう振り返る。「ACミランには2人の専従ドクターがいて、選手の体調やケガについても、ドクターがコーチや監督と話して、トレーニングプランもつくります。なので、ドクターとダイレクトに話せるポジションにいたほうが、トレーナーとしての専門性が活かせることになります。そこに行くまでは、ひたすら下積み。

他のトレーナーがやりたくないことを粛々として、休日で他のトレーナーが休んでいる日もトレーニングルームにいるようにした。すると、選手たちとの接点が広がっていったんです。まじめにやっていれば、見てる人は見ているという感じでしょうか」




遠藤さんは、日本人トレーナーの強みとして、「日本人の繊細さ」を挙げる。欧米人の選手は、日本人よりも強靭で、痛みを感じる閾値が様々だという。言い換えると、ケガをしても痛みをほとんど感じない選手もいれば、その反対もいる。

日本人治療家は、日本人の繊細さに対応しようとする分、技術もより繊細でになる。また、欧米では西洋医学をベースに局所療法的なアプローチが中心であるのに対して、遠藤さんのような治療家は、東洋医学的な包括的なアプローチをとる。そのため、海外においてはユニークな存在となる。

今後日本のトレーナーとしてキャリアを積むうえで遠藤さんが勧めるのが、看護師の資格をとって、それをベースに鍼灸師、アスレティックトレーナー等の資格を取ること。日本ではまだまだスポーツ界に看護師が少ない分、チャンスは多い。ドクターと同じ情報を共有して処置、治療等ができる看護師は、重要になるはずだという。

これからのスポーツ界には、うってうけの資格だと遠藤さんはその可能性に目を向ける。「『よくすぐれたトレーナーになるには、何をすれば良いですか』と聞かれますが、目の前の選手、患者さんに全力を尽くす。ただそれだけを毎日やれば良いと思います。

『将来はこんなトレーナーになりたい』と思うより、目の前の一つひとつのことに集中して、最善の方法をとっていく。どんなアプローチをすれば良いか毎日悩んでいれば、それがトレーナーとしての成長に繋がり、自然にチャンスがまわってくるはずです」

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