FITNESS BUSINESS

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“世界のフィットネスビジネス、その舞台裏の風景Ⅰ” 

2015.01.28 水 オリジナル連載

フィットネスクラブのM&A、その実態は?

最近米国のクラブ企業でも大規模なM&Aが繰り返されています。2014年は、特に通常よりも多くの売買が行われました。

24HOUR Fitnessは、5月頃にForstmann Little and Co.に売却され、年末にはBallyの残っていたクラブの中の32店舗を買い取りました。LA Fitnessは、シアトルのVision Quest クラブを、Gold Gymは、The Rush FItness omplexを、Active Sports Clubは、Club Oneの殆どのクラブを、Equinoxは、Sports Club/LAを買収。、有名どころをあげるだけでもこれだけのM&Aが昨年だけでも実施されています。私が以前勤務していたBay Club Company(旧Western Athletic Clubs)も、新たなファンド会社に再度売却されました。 

ちなみに、米国のクラブ企業の価格は一般的にはEBITDA(税引前利益に、特別損益、支払利息、および減価償却費を加算した数値)の9倍が相場であると以前から言われており、その数字から大きく外れることはありません。ただ、米国のクラブ業界では固定費が低く、利益率が30%を普通に超えているクラブが多数存在するので、100億円の売上があるクラブ企業であれば30%が利益でその9倍が売買価格の目安となり、そこから価格交渉が実施されます。
では、ファンド会社がクラブ企業に投資しオーナーになるということが、実際に会社内部にどのような影響を及ぼすのか、特に個人オーナーや、親会社が所有しているクラブをファンド会社が買収する場合、買収される社内ではどのような事が起こると皆さんは予想できるでしょうか?なかなか経験するチャンスはないと思うので、お伝えしたいと思います。

20150120_クラブマネジメント


まず、個人オーナーや親会社とファンドでは企業の存在する目的自体が異なります。ファンド会社の目的は投資した物件の価値を短期間で上げてそれを再び売却することが目的となります。通常は5年を目処に売却する事を前提にクラブ会社に投資します。クラブ運営の利益はもちろん、売却益を出来るだけ出すことが目的となります。
前述したように売却価格は、EBITDAをベースにすることから、投資会社からポートフォリオマネージャーやアナリストがクラブ会社に指名され、利益を上げるために買収後直ぐに動き始めます。ファンド側は、通常既に利益率を向上する余地がある事を事前に調査してそれを前提に投資しているのが普通です。

まず、実施する一番最初のステップは、人件費の20%削減です。クラブレベルでは、中間管理職人件費の削減です。通常クラブでは実務を実際にしていない部門マネージャーやディレクターがいるので、実務をしている人の時給を上げて、月給で勤務しているディレクター職を解雇して行きます。また、クラブの副支配人レベルの管理職も複数いる場合には即座に解雇します。

また、職務を統合できる中間管理職は廃止します。もちろん運営上無駄な人件費もこの時に削減です。一見、冷血に思えるかもしれませんが、彼らのミッションを達成するには妥当な手段でしょう。ただ、実際に解雇を通達するクラブマネージャーや、人事部の人にとっては決して楽しい仕事では無いことは経験からもわかります。自分が採用した部門ディレクターの内2割に相当する人数を一人ずつ自分のオフィスに呼び、自分で解雇の説明をする。これ程辛い仕事が今まであったでしょうか? 今でも苦い思い出です。あるファンドオーナーは、「費用は体脂肪のようなもので、放置しておけば勝手に増えて行く」と述べていましたが、典型的な思想だと思います。

次に取り組むことは、価格改定です。該当クラブの過去の価格改定の履歴を調べて、過去の価格改定幅よりも大きい幅で全ての価格を上げます。パーソナルトレニングやスパのマッサージの価格はもちろんのこと聖域は全くありません。こうすることにより、買収後直ぐに彼らにとって一番大切なEBITDAを上げることを最初の数ヶ月で達成することができますし、ある意味オーナーが変わった時だからこそ感情的な視点は一切無く利益の確保が可能です。これは、どのようなファンドでも、似たような手法であると想像できます。合理的だからです。メンバーには、たいへんな迷惑ですが…
さらに彼らは、クラブの価値を上げるために徹底的に施設投資を実施します。リニューアルやその会社のポートフォリオに新たなクラブを買収して加えたり、クラブ会社をを投資物件としてメンバーや投資家の視点から市場価値が上がるように努力します。逆にクラブ価値の上がらない投資は実施しません。彼らの豊富な経験から、買収前からある程度投資計画の目安をつけ、現場との調整を図ります。大規模な工事を短期間で行うことが多いためこのスピードは見事で、判断も早いのが特徴です。

その後5年間、このプロセスを毎年繰り返して新たなバイヤーを彼らは探すのです。勿論、売却時には多額なリターンを手にし、次の物件を探すのです。大規模なマネーゲームに巻き込まれたメンバーは迷惑かもしれませんが、現在優良なクラブ会社は投資ファンド会社が効率よく利益を得る道具となっており、今後もこの傾向は続くと思われます。逆に言えばそれだけ投資家にとって魅力的な業界であると言えるのです。

>>>Write by Tomoyuki Ishikawa

石川 友行

1996年、「世界一のクラブゼネラルマネージャーになる」という夢を実現するため、それまで在籍していた株式会社東急スポーツオアシスを退職し、渡米。米国の超優良スポーツクラブ企業であるウェスタンアスレチッククラブスにて3クラブのゼネラルマネージャーを歴任する。日本と米国のクラブマネジメントの架け橋となり、米国のクラブ経営、オペレーションを紹介した。’09年に日本に帰国後、株式会社東急スポーツオアシスに復職し、オアシスラフィール恵比寿のマネージャーを務め、そのほか2店舗の統括マネージャーを担当。現在はクラブツーリズム株式会社の顧問として新規事業部に所属しながら、日本のフィットネス業界の地位を向上させるべく、奮闘する。