FITNESS BUSINESS

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どちらが効果あり?日・米フィットネス マネジメント比較

2015.10.17 土 オリジナル連載

一人の日本人女性が日本からはるか9千キロ離れたアメリカ西海岸で活躍している。
名前は“奥野亜矢”

ハイパーフィットネスでのクラブ支配人経験後、更なる高みを目指しフィットネスの本場であるアメリカへ渡米。大学でフィットネスビジネスを学びつつ、米国の高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部のグループエクササイズ指導、クラブマネジメント分野など、業界の第一線で職務経験を積んでいる。その奥野氏が感じたリアルなアメリカのフィットネス業界の風景を伝える。

「アメリカのサービス、対応で困ること、最も嫌なところは?」と日本人旅行者や在米日本人に聞いたら、「私の担当ではないから、と対応をたらい回しにされる」という回答が圧倒的割合を占めると思います。アメリカでは同じ会社、同じオフィスで働いていてもそれぞれ専門分野が違い、担当制になっている場合がほとんどです。アメリカにおけるサービス業では、日本社会と違い多種多様なバックグラウンドを持つ人々が働いているのでサービスの”質”は日本と異なります。日本のようにマニュアル化された均一のサービス提供や細部にわたる丁寧な接客は改めて素晴らしいと感じます。

フィットネスクラブにおいても、日本とアメリカではオペレーション(運管)が原則的に違います。一般的に、日本でフィットネスクラブの社員の仕事というと非常に多岐に渡り、フロント、フィットネス、スイミングなど、部署は違っても運動指導や接客、セールス、人員管理、オペレーション管理、掲示物やポップの作成など、幅広く習得する必要があります。

では、アメリカではどうでしょうか。クラブ入会のセールスをする部署が専門化されている、というのはご存知の方が多いと思います。他にも多くのクラブにおいて、フロント、フィットネス、グループエクササイズ、ピラティスやスパ、ハウスキーピング(クリーン)とそれぞれ部署が独立してチームとして機能し、各部署のマネジャーがマネジメントチームとしてゼネラルマネジャーの指揮下で働いています。さらにはクラブ専属のデザイナーがWEBや掲示物、印刷物全部を管理したり、施設管理、修理専門のスタッフがいる場合もあります。

それでは、総合フィットネスクラブにおいて、“オールラウンドプレイヤー型日本式マネジメント”“専門型アメリカ式マネジメント”のメリット、デメリットをシンプルに4つのカテゴリーで比較してみましょう。

日米マネジメント比較日本式のオールラウンドプレイヤー型と米国式の専門型のそれぞれの特徴とは・・・

サービスレベル

文化の違いを除きオペレーションのみを比較した場合、顧客対応という点においては日本式のサービスレベルが高いと言えるでしょう。アメリカ式の場合、問題が発生しお客様に対応を求められても「自分の担当部署以外は分からない」と対応の遅れが発生する、部署間のミスコミュニケーションがサービス低下に繋がる、などのデメリットが上げられます。アメリカではチップに代表されるように「サービスは有料」という文化ですので、日本のように価格帯に関わらずハイクオリティのサービスを求めるということはありません。すなわち、高価格帯のクラブは価値に見合ったサービスを提供できるオペレーションになっています。しかし、同様のサービス提供を比較した場合も、クラブ運営の理解度が深い社員が多くいる方が顧客対応レベルは高いと考えます。

マネジメント

アメリカ式の場合は責任の所在が明確化され、マネジメントしやすいと言えるでしょう。運営方針、予算管理、人員管理における、採用、研修など、ほぼ独立して部署ごとに運営されています。ゼネラルマネジャーは各マネジャーを管理し運営するので、日本式よりも管理項目がシンプルです。また、マネジメントサイドと現場サイドが完全に分かれているのも特徴です。仕事内容のみならず、職歴、学歴や学校での専攻、サーティフィケート(卒業証明)も違い、全くキャリアパスが異なります。現場サイドで働いている人がマネジメントサイドに異動することは稀で、多くの場合、マネジメント職は別業界も含めマネジメント採用となります。

コスト

こちらは圧倒的に日本式が有利であると考えます。アメリカ式の場合、特にセールス担当などはコミッション制(基本給プラス出来高など)を取り入れているところがほとんどですが、フロント担当が見学者に入会セールスをする、といった日本型のオールラウンドの方が圧倒的に人件費は低く抑えることができます。

フィットネスクラブに限らず、アメリカの社会システムにおいて「一斉にリクルートスーツを着て始まる就職活動、新卒採用、新入社員研修」というのは一般的にありません。「エントリーレベルの職種」というのはありますが、日本の新入社員研修のように手取り足取り指導をするシステムではありません。学生は長期のインターンシップで社会経験を積み、社会に出て実戦力として採用されます。

働きやすさ

部署や役職により大きく異なりますが、専門分野が限られ集中して取り組める、といった点ではアメリカ式が働きやすいのではと思います。しかし、アメリカのビジネスはとてもドラスティックです。売上、数字で結果を残せない場合は、情状酌量なく解雇となります。特にセールス担当の離職率、回転率は非常に高く数ヶ月で入れ替わるということが多くあります。

今回私はアメリカ式、日本式と、わかりやすく二つに分けましたが、これは私の日本での経験やアメリカでの様々な業態研究、また自分の働くクラブなどを比較対象としての私見です。もちろん日本でも専門化されたオペレーションで運営されているクラブもあるでしょうし、アメリカでも近年のバジェットクラブのように少数の社員が清掃まで行うクラブもあります。

また、近年アメリカで新しく求人が出ているポジションでは「マーケティング・ソーシャルメディアスペシャリスト」という職種もあります。FacebookなどのSNSのマーケティングや、セールス戦略を担当する職種です。時代に応じて求められるポジションの有無も変わります。会社、クラブの運営方針に合わせ、また時代の流れに会わせ、柔軟に双方の良いところを取り入れることが、今や世界共通語になる「KAIZEN(改善)」になれば素晴らしいと思います。

【バックナンバー】
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>>>Write by Aya Okuno

奥野 亜矢

ロサンゼルス在住。自身の柔道家としてのアスリート生活の経験から、「大好きなスポーツ、フィットネスを通じて多くの人を幸せにしたい!」と志しフィットネス業界へ。
コナミスポーツ、ハイパーフィットネスにてトレーナー、グループエクササイズディレクター、そしてクラブ支配人を経験。”フィットネスの本場 アメリカ”でビジネスキルを磨き、挑戦するため渡米。高級クラブThe Sporting Clubや大学フィットネス事業部にてグループエクササイズ指導、クラブマネジメントに携わる。