FITNESS BUSINESS

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“世界のフィットネスビジネス、その舞台裏の風景Ⅲ” 

2015.09.15 火 オリジナル連載

「世界一のクラブのゼネラルマネージャーになる」という夢を実現するために、それまで在籍していた株式会社東急スポーツオアシスを退職し、渡米。米国の超優良スポーツクラブ企業であるウエスタンアスレチッククラブスにてクラブのゼネラルマネージャーを歴任。日本と米国のクラブマネジメントの架け橋となり、日本のフィットネス業界の地位向上に向けて奮闘している石川 友行氏に”世界のフィットネスビジネスとその舞台裏”の風景を伝えてもらう。

「二つの足には一足の靴しか履けない。死体を巻く布に財産を入れるポケットは付いていない。天国にお金は必要ない」これは、無一文の億万長者と呼ばれているチャック・フィニーという偉大な人物の座右の銘である。このコラムを読んでいる人で、フィニー氏の名前を知る人は多くはないと予想する。

では、この偉大な人物は、一体誰なのか? 世界一の資産家、Microsoft創業者のビル・ゲイツ氏が、「鑑」と慕うこの人物はなぜ無名なのであろうか?

それは、彼が故意に選択した事が理由である。彼は起業家で超一流のビジネスセンスを持っている。免税店のDFSの創業者であり、ハワイ、グアム、サイパン、台湾などで1960年代から、世界展開をした国際的ビジネスマンであり、最近になっての中国人旅行者の「爆買」が話題になっているが、フィニー氏は戦後日本の復興直後に日本人が今の中国人旅行者のように大挙して海外旅行を始めた頃に、日本人が旅行する先をいち早く予想し、DFSを空港に有利な条件で開設し、日本人がコニャックやタバコ、ブランド品などを「爆買」していたニーズに応える形で4,000億円以上の富を得た一流のビジネスマンなのである。若い頃からビジョンを持って行動したフィニー氏は、まさに近代の国際ビジネスの走りといえる。

2016年までに1,600億円を寄付に使い切る

しかし、フィニー氏が偉大なのは、彼のビジネスの功績によってではない。フィニー氏は、ビジネスで得たすべての富を過去30年以上の間に、慈善事業に7,000億円以上投じているのである。教育、保健事業に、また学術振興や高齢者の福祉厚生など、米国、豪州、ベトナム、南アフリカ、アイルランド、バーミューダー諸島。こうした活動は今後も続けるとのことで、2016年までに残りのすべての資産である1,600億円を寄付に使い切るとのことである。

この偉大な人物は、フィットネス業界と無縁ではない。彼は、1992年にSan Francisocoに本社を置くWestern Athletic Clubsを買収し、オーナーとなった。当時出店を加速したいジム・ガーバー社長と、高級リゾートなどに投資していたフィニー氏との思惑が一致し、ジム・ガーバー氏はフィニー氏の投資により、「スポーツリゾート」という新たなクラブカテゴリーを築き、次々と大型クラブを出店する。1992年に推定40億円で買収したクラブチェーンは、2008年にファンド会社に推定400億円で売却されたと言われる。WACは、経常利益が30%以上ある優良企業であり、フィニー氏は、安定した経営を続けるWACに惜しみなく投資し、毎年その利益を慈善事業に当てた。スタッフは、世の中のために自分達の利益が使われていることを知り、仕事に価値を見出し、お客さまのために奉仕するという夢のような好循環がまわるクラブ、それがWACだった。フィットネス事業は世の中のためになるとよくいわれるが、本当に世の中が必要としている人々に利益がまわる仕組みが築けていた。

私を始めとするWACのスタッフはフィニー氏に素晴らしい夢を見させてもらったわけだ。

>>>Write by Tomoyuki Ishikawa

石川 友行

1996年、「世界一のクラブゼネラルマネージャーになる」という夢を実現するため、それまで在籍していた株式会社東急スポーツオアシスを退職し、渡米。米国の超優良スポーツクラブ企業であるウェスタンアスレチッククラブスにて3クラブのゼネラルマネージャーを歴任する。日本と米国のクラブマネジメントの架け橋となり、米国のクラブ経営、オペレーションを紹介した。’09年に日本に帰国後、株式会社東急スポーツオアシスに復職し、オアシスラフィール恵比寿のマネージャーを務め、そのほか2店舗の統括マネージャーを担当。現在はクラブツーリズム株式会社の顧問として新規事業部に所属しながら、日本のフィットネス業界の地位を向上させるべく、奮闘する。