FITNESS BUSINESS

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株式会社ヒトカラメディア 高井淳一郎氏に訊く Venture Spirits

2017.05.25 木 オリジナル連載

フィットネス業界唯一の経営情報誌『FitnessBusiness』の連載企画「Venture Spirits」がWEB版でも掲載スタート!

本連載では2012年4月に独立を果たし株式会社FiNCを立ち上げた溝口勇児氏が名立たる企業で卓越した経営手腕を発揮されている経営者や起業家と対談していく。今回のゲストは、株式会社ヒトカラメディア代表取締役高井淳一郎氏。

溝口:まずはヒトカラメディアの事業内容についてお話しいただけますか。

高井:働き方の提案、働く場所の提供をメインとした不動産事業を行っています。オフィスづくりにおいては、ハードをつくる前に、どういう組織でありたいのか、組織をどう成長させるのか、どのような働き方をしたいのか、そのためにどういう環境が必要なのかといったことを理解することが重要と考えています。この考え方の延長として、どのような人に集まってほしいか、どんな行動変容を望むのかを設計し、内装・外装のコーディネイトも行っています。さらに、働き方だけでなく、ライフスタイルの提案として、東京で働きながら軽井沢で暮らすための移住の支援も行っています。

溝口:なぜ起業しようと思ったのですか。

高井:大学時代に学生団体をいくつか運営していて、何か軸をもって仕事を続けたいと考えるようになりました。同時に、経営者として世の中にインパクトを与えたいという思いもありました。人の生き方に関する領域に携われば、モチベーション高く続けられるのではないかと考え、働く場所や働き方の提案をできる事業を立ち上げました。

溝口:起業してから、大変だったこと、苦労したことはありましたか。

高井:組織づくりです。順調にお客さまが増えていたため、起業から3年半ほど経ったころ、事業拡大のために従業員を増やしました。しかし、組織マネジメントがうまくいかず、メンバーと経営陣の信頼関係を築けなかったのです。組織として機能しなくなり、売り上げも落ちてしまいました。

溝口:なぜそのような問題が起きたのだと思いますか。

高井:メンバーが急激に増え、コミュニケーションのとり方を物理的に変える必要があったのですが、その準備ができていなかったためだと思います。それまでは、事業計画や制度について、明文化しなくても共有できていましたが、人数が増え、きちんと伝えないとわからないという状況になってしまったのです。

溝口:人が陥りがちな課題として、過去の成功体験による固定観念が強いということがあります。それまでの経験によって、その人の常識ができてしまうのです。とりわけ、大企業や成功している企業で働いてきた人は、そこでの常識や文化に囚われてしまい、新しい企業に適応できなくなってしまいます。それを打破していくことがマネジメントであって組織づくりです。高井さんは、それをどのようにして乗り越えたのですか。

高井:信頼関係を築くために、まずは経営陣がメンバーを信頼して、考えを共有することにしました。同時に、ビジョンをきちんと伝えていきました。それを始めて2ヶ月ほど経ったころから、メンバーが意見を話してくれるようになりました。不満も含めてメンバーの意見を聞き、優先順位をつけて実行に移していきました。

溝口:私は、組織マネジメントがうまくいかないときの解決方法は2つあると考えています。1つは企業の考えに従業員を適応させること、もう1つは従業員の考えを反映させていくことです。どちらも正しく、2つを合わせたものがよいと思いますが、高井さんは後者を選択したのですね。前提によって、企業があるべき姿は異なります。ブランド力があり、厳しい採用フィルターを通過した従業員が集まり、パフォーマンスによって待遇が変わるというカルチャーの中でしか成立しないこともあります。自社のフェーズや器、社員のレベルを把握して制度をつくることが必要です。当社は、ゴールを決めて逆算して制度をつくっていたので、最初から従業員に合わせることはしませんでした。目指すゴールと、その制度をつくった理由を論理的に説明し、それに共感してくれる人だけが残りました。

高井:当社も、今は企業としての在り方を説明して、理解してもらうようにしています。タイミングによって、組織のパワーバランスが違うと思うのです。

溝口:そうですね。経営サイドがパワーを保つためには、採用力が大事です。一部の能力が高い従業員に依存していると、経営サイドが弱くなりがちです。採用力が高ければ、強いマネジメントができます。多くのベンチャー企業が抱える課題だと思います。ヒトカラメディアは、現時点では戦略を組織に合わせていっていますが、今後、ゴールから逆算して戦略を立て、適した人材を採用することも必要かもしれません。私は、組織が最もストレッチした状態を想定して戦略を立てることが大事だと考えています。可能な限りの現実的なゴールから逆算していくのです。1度組織マネジメントで躓くと、組織が壊れてしまうように、ゴールに到達することよりも居心地のよい環境をつくろうとしてしまうことがあるので、それは気をつけなければいけないですね。居心地がよくなると、成長できなくなってしまいます。今後、どのような組織づくりを行っていくことを考えていますか。

高井:まずは、企業のメッセージとして、働き方の多様性を認めることです。すでに、副業、在宅ワーク、時間有給休暇などの制度をつくっています。 組織で信頼関係を築けていることを前提として、従業員がやりたいことをでき、いきいきとしている状態をつくっていくことを目指しています。企業に縛られないよう、選択肢を提供していきたいと思っています。今、そのベースをつくっているところです。

溝口:ヒトカラメディアが価値として届けたいことに近いですね。副業については、今後広がっていくと思いますか?

高井:まだまだ難しいと思います。現状では国は勤労者側に推奨していますが、本来はまず企業側が受け皿としてリテラシーをもつことが必要だと思います。人材が流出する可能性など、企業にとってはリスクもあります。当社では、ライフワークとして人間性の幅が広がることであれば認めていますが、ライスワークとしての副業は禁止しています。

溝口:そうですね。例えば、副業として当社で働きたい人はいると思いますが、副業でそれだけのリソースがある人はそれほど多くないでしょう。でも、日本全体の働き方を変えるためには、影の部分ではなく光の部分を見て取り組んでいくことも、経営者として大事なことです。ヒトカラメディアがロールモデルとなってほしいと思います。

高井:私自身、現時点では時期尚早かもしれないという思いはありますが、試みとして取り入れている段階です。

溝口:高井さんを見ていると、人から応援される経営者だと感じます。そのような素質は経営者として大切なことですが、心掛けていることはありますか。

高井:ありがたいことに、1度しか会ったことがない方にもお客さまを紹介してもらえることがあります。とくに応援してもらおうと考えて心掛けていることではありませんが、ハキハキと話す、笑顔でいる、言うべきことは言うなど、気持ちいいと思ってもらえるように、人と接するときには学生のころから気をつけています。

溝口:経営者にとって、何かを成し遂げるためには、どれだけ多くの人に応援してもらえるかは非常に重要です。私自身の成長を考えると、社会に出て自立するまでは家族や友人、企業に依存していました。そこから成長し、社会に出てどこの企業でも働ける段階、つまり自立できるようになりました。現在は、多くの人に依存しています。成長前も現在も、依存の状態ではありますが、現在はその対象者が多いのです。自分1人でできることは限られていますから、支えてくれて、ときには無理なお願いも聞いてもらえる関係を築くことが、成功するためには大事だと思います。ヒトカラメディアの3年後、5年後の会社のビジョンについて教えてください。

高井:3年後は働き方という領域で、5年後は暮らし方の領域に関しても、「=ヒトカラメディア」だと言われる状態になっていることが目標です。そのために何をするかを、今考えているところです。ベースはできているので、クライアントのニーズを聞きながら考え直しています。

溝口:最後に、起業を志す人へメッセージをいただけますか。

高井:考えすぎずに一歩を踏み出したほうがよいと思います。考えすぎると動けなくなってしまうことがあるので、まずは一歩踏み出して、歩きながら考えればよいのではないでしょうか。そのほうが、結果的に早く前に進めるのではないかと思います。

溝口:「当たって砕けろ」の生き方ですね。それで失敗する人もいますが、人に支えてもらえる人、資金を持っている人は成功できると思います。高井さんは、人に支えてもらえる人ですから、その考え方でよいのでしょう。ありがとうございました。

インタビュー:溝口勇児
’84年生まれ。’03年、フィットネスクラブ運営企業に入社。同社では新店のオープン、新規事業の立ち上げに参画、並びに約2年間で営業利益1億円の増収を達成。’12年 4月、株式会社FiNCを創業し、代表取締役に就任。