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【NEXT 6月特集】世界で活躍する日本人トレーナー  

2017.06.16 金 スキルアップ

日本人トレーナーが世界的にも存在感を高めてきている。日本人ならではの気遣いや勤勉さ、物事に対するきめ細やかさなどは、トレーナーの仕事にも活かされ、世界のトップチームで活躍する日本人トレーナーが増えている。
今回の特集では、世界で注目される選手やチームをサポートする日本人トレーナーに取材し、仕事に対する視点や心構え、キャリアづくりの考え方に学び、トレーナーとしての競争力を高めるヒントを得る。世界では、「トレーナー」としても役割が分担されている場合が多い。トレーナーとしての肩書きと役割にも注目することで、より自身の課題と照らし合わせてキャリアづくのヒントが得られるはずだ。

【特別インタビュー】

元MLBシアトルマリナーズ アシスタントアスレティックトレーナー 森本貴義さん

【世界で活躍する日本人トレーナー】

#1 マリア・シャラポワ専属フィジカルトレーナー 中村豊さん
 
#2 元EXOSパフォーマンススペシャリスト 阿部勝彦さん
 
#3 元MLSロサンジェルス・ギャラクシーアシスタントアスレティックトレーナー(パートタイム) 黒子甫さん
 
#4 元NBAサンアントニオ・スパーズアシスタントアスレティックトレーナー 山口大輔さん
 
#5 元NBAミネソタ・ティンバーウルブススポーツパフォーマンスディレクター 佐藤晃一さん
 
#6 ACミランメディカルトレーナー 遠藤友則さん
 
#7 杭州緑城フィジカルコーチ 池田誠剛さん

 ※特集内容はインストラクター・トレーナーのキャリアマガジン誌「月刊NEXT6月号」でもご覧いただけます。



【トレーナーの役割】

①メディカルトレーナー

主に痛みやケガを抱える選手に対してドクターと相談しながら、リハビリやケア、やトレーニングを担当する。

②アスレティックトレーナー

選手のケガ予防や応急処置、障害後の選手の復帰をサポート。チームでは、練習前のテーピングやストレッチなども担当する。

③ストレングス&コンディショニングトレーナー/フィジカルトレーナー/トレーニングコーチ

選手のパフォーマンス維持向上のためのトレーニングを担当。練習でのウォーミングアップやクールダウン、練習とは別に、基礎体力向上のためのトレーニングなどを担当する。

④フィジカルコーチ

より競技に近い動きや、競技での戦略も考慮したトレーニングを担当する。

世界で活躍する日本人トレーナー

#1 マリア・シャラポワ専属フィジカルトレーナー 中村豊さん

【マリア・シャラポワ】
マリア・シャラポワは、ロシア出身の女子プロテニス選手。史上10人目のグランドスラム達成者で、グランドスラム優勝5回、準優勝5回。ロンドンオリンピック銀メダリスト。2016年の全豪オープンでのドーピング違反により1年3か月の出場停止処分を経て、2017年4月、女子テニスのポルシェ・グランプリで、準決勝進出(ベスト4)との復帰を果たした。

6月号⑤


シャラポワは、2004年のウィンブルドンで17才にして初のグランドスラム優勝を挙げ、世界的に知られる有名テニス選手となった。何度も肩のケガに悩まされながらも、世界一復帰を何度も遂げてきている。そのシャラポワのフィジカルの強さを支えてきているのが、中村豊さんだ。

2006年にスポーツエリート養成校IMGアカデミーで出会い、2011年からは専属トレーナーとなる。現在も、シャラポワの自宅があるロザンゼルスと、IMGアカデミーがあるフロリダでの練習、および世界で行われる試合に帯同。2017年4月の見事な復活戦も、専門家チームの一員として支えた。

その中村さんは18才で渡米し、トレーナー歴は25年。当初は自身が世界的なテニスプレイヤーになることを目指しての渡米だった。13才の頃からテニスをはじめ、高校時代は桐光学園テニス部員として試合に出ながら、湘南スポーツセンターで練習を積んだ。

6月号⑦中村トレーナーのキャリアステップ


湘南スポーツセンターは杉山愛さんをはじめ、世界的なテニス選手を輩出しており、コーチたちも海外の状況に目を向けていた。そんな中、「大学に行くのであれば、世界最高の環境でテニスがしたい」とサドルブルックアカデミーを選択。松岡修造さん(当時選手)をはじめ、世界テニス界のトップ選手と同じ環境に身を置いていた。

中村さんがトレーナーの道を志すようになったのは、当時サドルブルックアカデミーでフィジカルトレーナーとして働いていたエッチェベリーさんとの出会いがきっかけとなっている。エッチェベリーさんは、元陸上のオリンピック選手で、その後テニスのトレーナーとして頭角を現していた。

もともとフィジカルトレーニングに興味を持っていた中村さんにとって、そのトレーニングのアプローチはロジカルで、大きな可能性を感じた。そうして大学に進学し、NSCA-CSCSの資格を習得。現在はフィジカルトレーナーとしての立ち位置でトレーナー活動を続けている。

自身もテニスプレイヤーとして世界を目指した経験は、トレーナーとしての視点の鋭さと日々の研鑽に繋がっているようだ。「強いアスリートほど自分の意識に敏感な一方で、自分のやり方、成功した方法を守りがちです。でも身体は、同じ動きや同じトレーニングを続けていると機能を退化させることに繋がります。

私がやってきていることは、とにかく日々の練習を見て、身体つきや動き方、柔軟性や動きのキレなどについて、客観的に見て違和感を感じたところを、選手ともコーチとも共有して調整を続けること。プロ選手の回りには多くの専門家がついていますが、私は身体や動きづくりの専門家として、自分でも常にトレーニングについて学び、実践し、理解しようと日々努めています」


6月号⑥


日本人トレーナーとして、選手たちの人間教育にも心を配っている。中村さんはIMGアカデミーで盛田ファンドのアスリート育成サポートにも長く関わってきているが、IMGで日本人選手でも安心して本来の競技力向上に取り組める環境整備を行うとともに、選手たちや関係者にも、きちんとした日本語で接し、まず自らが日本人としての道徳心を大切にしてきている。

自分のアイデンティティを持つことが、世界のトップで戦い続けるうえで大切だと考えるからだ。「私も以前は、アメリカ的なものや考え方に惹かれたり、欧米人の戦い方をまねようとしたこともありましたが、日本人は日本人としての強みを理解することでこそ世界と戦えると思っています。

テニスでも、欧米選手に比べて日本人選手は遅筋が多いので、持久戦に持ち込んで体力と精神力の勝負に持ち込んだほうが勝てる可能性が高まる。トレーニングでも、単に欧米の強い選手がやっていることを真似るのではなく、日本人や一人ひとりの骨格や特徴に合わせたトレーニングをすることが大切です。

トレーナーとしても、アイデンティティを持ちつつも、日本人の強みである協調性やチームワークを大切にすることで、より選手の力になれると感じています」

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